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36.邪竜、孫ができる【前編】

お世話になってます!



 古代遺跡での調査から一週間が経過したある日のこと。


 早朝、カルマはリビングにてひとり、コーヒーを飲みながら、雑誌を読んでいた。


「ふむふむ……なるほど。最近のお母さんたちは公園に息子を連れて行って、【ママ友】とやらになるのですか……。ままとも……良い響きです。覚えておこう」


 カルマは万物創造スキルで、メモ帳を作ると、メモメモ……と雑誌の記述を移す。


 表紙には【母子クラブ】と書いてある雑誌だ。


 育児をする母親をターゲットにした雑誌らしい。


「母子クラブはやはり神雑誌ですね。いつも私に母親のことを教えてくれます」


 カルマはその豊満な胸に、雑誌を抱いて、うっとりする。


 と、そのときだ。


「ハァイ、カルマ。おはよー」


 すぅ……っと音もなく、監視者エルフが出現したではないか。


「だから音もなく現れるんじゃあないですってば……」


「まあまあ。……で、カルマ。それ何の雑誌?」


「ただの雑誌ではないです。母の全てが書かれた神の雑誌ですよ」


「母子クラブねえ……。あなたの間違った知識、どっから仕入れてるのかなって思ったけど、なるほど、雑誌の受け売りだったのね」


「う、うるさいですよっ!」


 図星をつかれて赤面するカルマ。


「それに間違ってなんてないです! 母子クラブは信頼できる雑誌です! それを侮辱すると私が許しませんよっ!」


「侮辱なんてしてないわ。ただ雑誌に書いてることを真に受けない方が良いって言ったのよ」


 憤るカルマに、しかしどこまでも余裕の笑み浮かべるチェキータ。


 その余裕が母性に由来しているように思えて、カルマは歯がみする。


「くっ……! どうすれば私も母性を身につけられるのでしょうか……! 教えて、母子クラブ!」


「そうねぇ。とりあえずまずは落ち着きましょうか。そろそろリューたちが起きてくる頃でしょう?」


 確かにそろそろ7時。


 息子が起きてくる時間だ。


「本当です。アホの相手をしていたら無駄に時間を使ってしまいました」


「アホってひどいわー。お姉さん悲しい」


「年齢が百を余裕で超えてるババアが何か言ってますよ」


 やれやれ、とカルマは首を振る。


 そして万物創造スキルを使って、料理を作る。


 籐のカゴに入った、あつあつのバターロール。


 コンソメのきいたスープ。


 新鮮な果物にフルーツソースのかかったヨーグルト。


 というベーシックな朝食が、食卓の上に広がった。


「見事にリューの好物がそろってるわねー」


「当たり前です。息子の食べたいものを用意するのが母というものです」


「それも雑誌の受け売り?」


 カルマはスルーする。


「さぁてりゅー君まだかなー、まだこないかなー」


 カルマが時計の前でソワソワする。


「りゅー君はまじめなお利口さんだから、いつもきっかり7時に降りてくるのです。ふふ、まだかなーまだかなー」


 しかし。


「…………。あれ?」


 10分が経過しても、リュージが降りてくることはなかった。


「どうしたのでしょうか?」


「寝坊かしら?」


「まさか。全世界の頂点に立つ完璧超人のりゅー君に限って寝坊なんてありえませんよ」


「その無駄に豊富な語彙も、母子クラブから得てるわけ?」


「起こしに行きましょうか……。しかしりゅー君の部屋は聖域。私が安易に足を踏み入れて良いものか……」


 と、そのときだった。


【た、助けてっ! 母さんっ!!】


 と、天井から、息子の悲鳴が聞こえたでは【どうしましたかぁあああああ!!】


 カルマは秒で邪竜の姿に変身すると、そのまま息子の部屋がある2階へ、飛び上がった。


 ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッッッ!!!


 天井を突き破り、邪竜からすぐに人間の姿へ戻ると、すちゃ、と華麗に着地を決める。


 リビングは息子の部屋の真下にあったのだ。


「りゅー君どうしました敵襲ですか畜生どこだそんな不届き者はぶっ殺してやるぞごらあああああああ!!」


 カルマは左手に黒い雷、【万物破壊】のスキルを発動させながら言う。


 カルマの眼前には……リュージのベッドがある。


 ベッドの上には息子と、そして……。


 見慣れぬ、小さな子供がいた。


 5歳くらいだろうか。


 半眼のぬぼーっとした眼。


 褐色の肌に長い金髪の少女だ。


 そして特徴的なのは……その子が、何も身につけてないことだ。


 全裸の褐色幼女が、リュージの腹の上にまたがっていた。


「なななな、なんですかこの破廉恥な娘は! 息子の情操教育に悪い! 今すぐどきなさいいいいいいいいいい!!」


 カルマが怒り狂った目を、褐色幼女に向ける。


 幼女がカルマと目が合うと、


「や」


 と、一言だけ、発した。


「や。るぅ。パパ。や」


 ぷいっ、と幼女がそっぽを向くと、息子の体に抱きついた。


「ぱぱ。ぱぱ。すき。ぱぱ」


 むぎゅーっと、幼女が抱きついている。


「あ゛あ゛てめえ息子に抱きついてるんじゃないですようらやましいぃいいいい!」


 と興奮するカルマ。


「うるさい。あのおんな。おいだす」


「追い出すのはこっちの方ですよ! 息子から離れなさい!」


 カルマはズンズン、と幼女に近づいて、体をひょいっと持ち上げようとする。


「やっ! るぅ。ぱぱ。はなれる。やっ!」


 幼女が嫌々と首を振るう。


「さっきからパパパパって……いったい誰のことを言ってるのですか?」


 幼女を離そうと躍起になるカルマが尋ねる。


「るぅ。ぱぱ」


 幼女は自分を、そして次にリュージを指さした。


 ぴたり……とカルマが動きを止める。


「……いま、なんと?」


 カルマがおそるおそる、幼女に尋ねる。この子は、何かトンデモないことを、言っていたような。


「ま、まさか……まさかね。りゅー君。ねえこれは夢ですよね。今この子、りゅー君のことパパって……」


 いやそんなまさか。


 ありえない。


 聞き間違えだろう。


 しかし……。


「るぅ。ぱぱ。むすめ。ぱぱ。【タネ】。うまれた」


 ガツンッ……!


 と脳を殴られたような、衝撃を覚える。


 この幼女は言った。


【るぅ】はパパの娘であり、パパの【タネ】から生まれた……と。


「りゅ、りゅりゅりゅ、りゅー君……ままま、まさかすでにシーラとっ?」


 するとリュージが顔を真っ赤にして、「ち、違うから違うから!」と首を振るった。


「で、でぇすよねぇ~……。そうですよね、まだシーラと交際すらしてないのです。交配などまだまだ先ですよね」


「交配ってあなた、リューは動物じゃないのよ」


 いつの間にか背後に、チェキータが立っていた。


「それでリュー。これはいったいどういう状況? この子は誰?」


 チェキータが冷静に、リュージに問いかける。


「わからないんです。朝起きたら僕のお腹の上で寝ていて……。この子、僕をパパって呼ぶんです」


「ふーん。そう。……よいしょっと」


 チェキータが、息子のお腹の上に乗っかる幼女を、持ち上げる。


「なに。はなせ。るぅ。ぱぱ。うえ。いる」


 褐色幼女が手足をじたばたする。


「…………………………」


 チェキータの表情が、みるみるうちに険しくなっていく。


「どうしました、チェキータ?」


 異変を察知し、カルマが監視者に尋ねる。

「ちょおっと、困ったことになったわね」


 チェキータがいつにもまして真剣な表情でつぶやくと、その場に幼女を下ろす。


 褐色幼女は「ぱぱー」とベッドの上に乗っかり、息子にぺたーっとくっつく。


「リュー。カルマ。落ち着いて聞いてね」


 チェキータは褐色幼女を指さして、言った。


「この子、魔王四天王のひとり、右方のルシファーよ」

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