34.邪竜、魔王四天王をブレスで消し炭にする【前編】
お世話になってます!
擬態宝箱を倒した、数分後。
カルマは息子達とともに、トラップ部屋から離れた場所にいた。
「リュージさんシーラさん、見てくださいこれっ!」
カルマは息子達に、先ほどゲットしたものを見せる。
黒い宝珠だ。
「キラキラしててきれいなのです……!」
シーラが宝珠を見て目を輝かせる。
「あんな何重にも罠がかかっていた箱の中に入っていたのです。お宝に違いありません」
カルマは息子に喜んでもらいたかった。
宝を見つけて喜ぶ息子を……見たかったのだが。
リュージは険しい表情をしていた。
「どうしたのですか?」
「ええっと。……なんだか、とても嫌な感じがするんです」
「嫌な感じ?」
はて、と首をかしげるカルマ。
「はい。上手く言えないんですけど……なんかすごく、禍々しいオーラというか、言葉にできない嫌な感じがあります」
息子が母の手に載る、宝珠を見てつぶやく。
その顔は適当なことを言っているようではない。真剣さがあった。
まあ息子が仕事に対して適当だったことはないのだが。
カルマは宝珠を見ても、特に何も思わなかった。
ただの黒い水晶だなくらいにしか思わない。
「うーん……。私は何も。シーラさんはどう思います?」
と、そのときだった。
「!?」「!?」
リュージと、そして、カルマは、同時に驚愕に目を開いた。
先ほどまで、そこにいたはずの……シーラが。
「シーラっ!?」
「シーラさん!?」
なんと……いなくなっていたのだ。
「シーラっ! シーラっ!!」
リュージは声を張り上げて、仲間の名前を呼ぶ。
「シーラさんっ! どこへ行ったのです!?」
カルマも気付けば、必死になって、ウサギ獣人の姿を探していた。
背筋が凍るとはこのことだろうか。ぶわり、と額に汗が出る。
先ほどまで……シーラはその場にいた。
シーラは黙って消えるような子ではない。どこかへ行くときは、一声かける。
「消えちゃった! どうしよう! どうしようカーサン……!!」
「…………」
涙を流すリュージを見て、カルマも同じ思いを抱いた。
シーラが忽然と消えたことに、カルマは、深い喪失感を覚えたのだ。
何より……息子が泣いている。
そんなの……許さない。
「落ち着いてリュージさん……」
カルマは、決意した。
この後、リュージにとても怒られるだろうと。
でも、そしないといけないのだ。
使わないと、いけない場面なのだ。
【最上級転移】
これは、行ったことのない場所へも、テレポートすることのできるスキルだ。
そう、行ったことがなくても、行き先を念じれば、そこへ行ける。
シーラの場所へ行きたい、と強く念じれば、その場所へ転移することは可能。
……だが。
使った後、まず間違いなく……バレる。
【最上級転移】は神殺しのスキルだ。
つまりこれを使ったら、自分は神殺しの邪竜であると、母であると、判明してしまう。
だがそれがどうした。
息子の友達のピンチなのだ。
……否。
息子の嫁候補が、ピンチなのだ。
「リュージさん……私実は」
と、正体を明かそうとした、そのときだ。
「!」
カルマの手に持っていた、黒い宝珠が輝く。
するとその光が、リュージを包み込む。
「か、カーサンっ!!!」
黒い光がリュージを包み、そして強く輝くと、
「リュージ……りゅー君っっ!」
リュージはなんと、黒い宝珠に、吸い込まれていったのだった。
【最上級転移】を即座に使う。
今度は迷わなかった。
リュージが宝珠の中に消えた瞬間、カルマはテレポートを発動させた。
リュージとそしてシーラの場所へ!
とただそう強く念じて、テレポートを使った。
……視界がゆがむ。
……そして。
……気付けば、大部屋にやってきていた。
「りゅー君っ!? シーラっ!」
その部屋は王宮の謁見の間ほど大きい。
特筆すべきは……天井が、なかった。
「屋内でしょここ……?」
そのはずだが、天井には星空が広がっているではないか。
どうよく見ても、本物の星にしか見えない。
「そんなことどうでもいい! りゅー君っ!? シーラっ!」
宝珠が輝いて、息子が吸い込まれたとき、カルマは悟った。
あの宝珠の中に、息子も、そしてシーラも、吸い込まれたのだと。
ゆえにふたりは同じ場所にいるはずだと思ったのだ。
果たして……。
「シーラっ!!」
まず最初に、カルマは倒れているウサギ少女を見つけた。
それを見てカルマは……。
ほっ、と。
大きな、安堵の感情を抱いた。
そしてシーラに駆け寄り、抱き起こす。
「シーラっ! シーラっ! しっかりなさい!」
「うう……あうう……か、カーサン、さん?」
シーラの肩を揺すると、彼女はうっすら、目を開けた。
カルマはホッ……と心からの安堵の吐息を漏らす。
「よかった……無事で……」
その言葉は、自然と、口をついた。
ウソ偽りなく、心に抱いた言葉を、そのまま言葉にしたら、さっきのとおりになった。
「! りゅー君っ!」
シーラの無事の次は、もっとも大事な息子の番だ。
カルマは辺りを見回す。
すると……。
天井の、夜空に。
何かが……浮かんでいた。
「なんです……あれ?」
「巨大な……悪魔?」
果たして夜空に浮かんでいたのは……仰ぎ見るほどの、巨大な悪魔だ。
黒い、禍々しい鎧を着込んだ巨体。
側頭部からは山羊のねじれた角が生えている。
尻の部分からは鏃のついた長い尻尾が伸びており……その威容はまさしく悪魔そのものだ。
悪魔の顔は見えない。
その顔は鎧と同じデザインの鎧兜に覆われている。
空に浮かぶ悪魔を、呆然とみていたそのときだ。
「逃げなさいッ!!!」
と、カルマの目の前に、監視者のエルフが出現したのだ。
「チェキータあなたどこから」
「カルマ! テレポートで逃げなさい!!!」
珍しくチェキータは焦っていた。
「あれは……魔王の部下。魔王四天王のひとり! 右方のルシファーよ!!!」