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32.邪竜、息子の前で張り切ってザコを倒しまくる【後編】




 大陸東端で見つかった遺跡。


 そこで調査をすることになったリュージ。

 母には無事に帰ってくると言ったが……その実、やはり心配ではあった。


 未知の遺跡には、何が出てくるのか、わからないから……。


 と、最初は思っていた。


「むっ! 何か気配がします……! ふたりとも下がってください!」


 前方を歩いていた黒髪の美人冒険者、カーサンが、リュージ達を手で制して、下がるよう指示する。


 奥を見やると……向こうからガチャ、ガチャッ、ガチャッ、と何かが歩いてくる音がする。


 リュージ達は身構えるが……その前に立つ女性の背中を見て、とてつもない安心感を覚えた。


 それは誰かの背中に似ていた。


 と思った、次の瞬間、


 ブンッ……!


 と、カーサンの背中が、ブレた。


「えっ?」「き、消えたのですー!?」


 一瞬にして、眼前のカーサンが消えた。


 と、思ったら、


「ただいま帰りました」


 と、カーサンが正面を向いた状態で、リュージ達の前に立っているではないか。


「【生きる甲冑リビングアーマー】でした。数は2でした。地図の方に書き込みよろしくお願いします」


「は、はひ……」


 地図を持っているのはシーラだ。


 ペンを使って名前を書いている。


「あの……本当に生きる甲冑がいたのですか?」


 とリュージが尋ねると、カーサンはコクリとうなずく。


「3体ほどいました。この剣で切ってきました。魔力結晶は回収してないので、取りに行くついでに様子を見に行きましょう」


 リュージはうなずく。


 そして歩くことしばし。


 遺跡の床の上に、一刀両断された甲冑が、転がっていた。


 それも横に、ではない。


 縦に、だった。


「剣って最初は使い方わからなかったですが、慣れると楽ですね」


 うんうん、とカーサンがうなずいている。

 あの一瞬のうちに、遠くにいた生きる甲冑のもとまでいって、一気に3体を、縦に割って、そして一瞬にして戻ってきた。


 ……ということか。


「す、すごい……」「すごすぎますっ、カーサンさん!」


 リュージは素直に尊敬した。


 カーサンの技量は、常人の領域を遙かに超えていた。


 だというのに、この人は一切おごらず、それどころか、


「リュージさん、シーラさん。おけがはないですかっ!」


 と自分たちのような、足手まといの身を案じてくれる。


 本当に……すごい人だ。


「僕らは大丈夫です。カーサンが倒してくれたおかげです。ありがとうございます、カーサン」


 するとカーサンは「おほー!」と妙な声を出した。


「おほ?」

「あ、あははっ! ななな、なーんでもないですよっと!」


 満面の笑みのカーサン。


「大丈夫ですよリュージさんシーラさん! 私がいればもう安心! どんな敵だろうと」


 ……シュンッ!


 ……ザシュ! ザシュッ!


 ……シュンッ!


「このように秒で倒してあげますよっ!」


 会話の途中で、カーサンの姿がぶれて、また直った。


 どうやらカーサンは、今の会話の一瞬で敵を察知し、敵を倒して、戻ってきたみたいだ。


「今のは【生きる剣(リビングソード)】でした。ま! 敵ではありませんでしたねっ!」


 ふふんっ、とカーサンが不敵に笑う。


 ちらちら、と一瞬だけ物欲しそうな顔をしていたが……たぶん気のせいだろう。


 まさかこんな高レベルの冒険者で、人間的にも優れたカーサンが、まさか敵を倒して褒めて欲しいみたいな、そんな目をするわけがなかった。


「すごいのですカーサンさん! どうやって敵を察知してるのですっ?」


「ふふん、それは息子達を守るため……否! 仲間を守るため! 私の中の第六感的な何かが、息子を……じゃない、仲間を守れと、敵の存在を知らしてくるのです!」


「す、すごすぎる……!」「しーらたちにはマネできないのです……!」


 やんややんや、とカーサンを褒めるリュージ達。


「おひょっ!」「「おひょー?」」「な、なんでもないですよぉっ! ひゃぁ!」


 カーサンはなぜか褒めると、妙な声を出す。


 気にはなるが、しかしまあそういうものだと解釈するふたり。


 人間、おかしな部分はひとつやふたつくらいある。


「……やばいです。これはやばい。息子が褒めまくってくれる……そうか、ここが天国かぁ~……」


 カーサンが蕩けた表情で、何かを小声でつぶやいていた。


「よし、よーーーーしっ!! お母さん張り切っちゃいますよぉおおお!!」


 グッ! カーサンが拳を突き上げる。


 そしてまた身体がブレると、


 ザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュ


 何かが切れる音が、絶え間なく、奥から聞こえてくる。


 モンスターの悲鳴すら聞こえないまま、「ただいまー!」とカーサンが笑顔で帰ってきた。


「えっとですね、【彷徨う石像】でしょう、【一つ目巨人モノアイタイタン】でしょう、【黄金蝙蝠ゴールドバット】が10匹くらいいましたねっ! すべて倒しましたよ! 見ます? 見ます?」


 カーサンが子供のように、無邪気な笑みを、リュージ達に向けてくる。


 歩いて死体を確認すると、確かにカーサンが申告したモンスターが、横たわっていた。


「すごい!!」「強すぎるのです-!」


 彷徨う石像も一つ目巨人も黄金蝙蝠も、B級のモンスターだ。


 SSS級の実力のあるカーサンには、それこそ、赤子の手をひねるかのごとく、楽に倒せるだろう。


 しかしそれにしたって、あの一瞬で全てを倒すなんて。


 そのスピードと技量は、人間のレベルを超えていた。


「シーラ。これが……SSS級冒険者なんだね。すごすぎるよ……」


「はいなのです。とてもしーらたちと同じ人間とは思えないのです……」


 リュージ達がカーサンに、尊敬のまなざしを向ける。


 すると……。


 びたーんっ!!!


 と、カーサンが仰向けに倒れるではないか。


「か、カーサン大丈夫ですかっ!?」


 リュージが慌てて近寄ると。


 カーサンは「だめぇええ…………天に登っちゃうのぉおお…………」とものすっごい笑顔で、つぶやいていた。


「だ、ダメージでも食らったんですか?」


「いえとんでもないっ!!」


 びょんっ! とカーサンが飛び上がる。

 

 仰向けの状態で、どうやって飛び上がったのだろうか。


「ダメージなんてこれっぽちも食らってませんよ! 私は無事です!」


「良かったぁ……」


 ホッ、と安堵の吐息を漏らす。


「それよりリュージさんっ! シーラさんっ! マッピング作業を続けましょう! 道行く敵は私が残らず殲滅しちゃいますよー!」


 剣を抜くカーサン。


 そしてリュージ達のすぐ前を歩き、そして敵を察知すると、一瞬にして狩り、笑顔で帰ってくる。


「さぁリュージさん、シーラさん。探索は始まったばかりです。頑張りましょう!」


 ぐっ! とカーサンがリュージ達を見て親指を立てる。


 そして空いてる方の手で剣を持ち、ヒュンヒュンヒュンッ……!


 と剣が凄まじいスピードで振るわれる。


「ぎゃっ!!」とグレムリンが。

「ギギぎっ……!」とインプが。

「ぐぎゃああ!」とレッドキャップが。


 カルマの不意を打とうと、物陰から出てきた悪魔型モンスター達が、カルマの剣のさびとなった。


 完全に意識は、リュージ達に向いていたはずなのに。


 まるで呼吸をするように剣を振るい、敵を撃破したではないか。


「どんな敵もこのカーサンの剣で切り伏してあげます! なので、安心して地図の作業を続けてください。ね?」


 カーサンの言葉に、リュージはとてつもない安心感を覚えた。


 それは一瞬だが……母を想起させた。


「ありがとう。頼もしいです……カーサン」


 リュージがこの頼れる仲間にお礼を言う。

 するとカーサンは「ありがとぉおおおおおおおおおお!!!」


 と叫んでいた。


「な、何に感謝してるのですか?」


「リュージさんに感謝されたことに対してありがとうっていったのですよー!」


 ……最強冒険者のこの言動、本当にうちの母親そっくりであるようにしか、リュージは思えなかったのだった。

おつかれさまです!


投稿が遅れてすみませんでした。


次回も頑張ります!


ではまた!

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