32.邪竜、息子の前で張り切ってザコを倒しまくる【前編】
お世話になってます!
王都で1泊した後、馬車を使って1日かけ、大陸東端、ザクディラへと到着した。
そこで1泊し、いよいよ、リュージ達は遺跡へと向かうことになった。
ザクディラからさらに東へ進んだところにある、大森林【東森】。
リュージ達はザクディラから、徒歩で東森へ入り、奥へと続く。
森の入り口には、すでに到着していた冒険者がいて、リュージ達は彼の後をついていく。
ややあって。
「ここがその遺跡ですか……」
カルマはフーン、と眼前の遺跡を見ながらつぶやく。
見た感じだと、よく見る地下迷宮と同じだが。
しかし入り口に門やら像やらが立っており、ダンジョンよりも【観光名所】な感じはする。
壁や柱には絵が描いてあるのもまた、ここがダンジョンとは別物であることを物語っていた。
「リュージさん、なんか人が少ないですね。今回は大規模な遺跡調査なんでしょう?」
「たぶん先に入ってるんじゃないでしょうか」
リュージ達は依頼があってからここへくるまで2日かかっている。
だがもっと近くに住んでいる冒険者たちは、もっと早くにここへ到着しているだろう。
たとえばザクディラに住んでいる冒険者なら、ここから数十分くらいでこれるから、なるほど早く到着するだろうし。
「リュージさんの聡明さに私は脱帽しました……。神と呼んでも良いですか?」
「……なんかカーサンと話してると、うちの母を思い出します」
苦笑するリュージ。
おっといかん、正体をばらすわけにはいかないのだ。
自分は冒険者カーサンであって、息子の母ではないのだから。
と雑談していたそのときだった。
「おー、よーきたなぁ」
誰かが、リュージ達に近づいてくるではないか。
小柄な女だった。腰のあたりから黒い翼をはやしているので、亜人だと思われる。
特徴的なのは、キツネのように細められたその目だ。
「あんたら、カミィーナのギルドから来た子ぉらやろ?」
独特のなまりでしゃべる翼人に、息子がうなづく。
「リュージです。彼女たちは僕の仲間でシーラとカーサンです」
ウサギ娘とそしてカルマも、ぺこっと頭を下げる。
「そかそか。うちはクゥコ。ザクディラのAランク冒険者や。今回の遺跡調査の総締めちゅーか、ま、早い話リーダーや。よろしゅーな」
翼人の女性、クゥコが、リュージに握手を求めてくる。
むむむっ! 知らない女性と握手など、お母さんゆるしませんよ!
……とでしゃばりそうになって、ぐっとこらえるカルマだった。
「んで話聞いてるとおもうけど、今回あんたらには、遺跡の地図作成を頼みたいんや」
ほい、とクゥコが、リュージに羊皮紙を手渡してくる。
何も書いてない羊皮紙だ。
下の端の部分に、ピンのような、点の印がついている。
「これは普通の羊皮紙やない。あんたらが動くと、周辺の情報が自動的に書き足される、マジックアイテムなんや。【魔法地図】って言ってな。ためしにそこら歩いてみ?」
息子はうなずくと、魔法地図を持ったまま、ちょっと離れ場所まで行く。
「なるほど、確かに地図が表示されてますね」とカルマ。
「あ、あの……カーサン、なんでぴったり後にくっついているですか?」
「いえ、りゅー君……じゃない。リュージさんが迷子になったら大変かなとっ!」
「……ホント、カーサンはうちの母そっくりです」
苦笑する息子の顔めっちゃかわいい! きゃー! と天に召されそうになるが、我慢する。
息子と一緒に、翼人のもとへ帰ってくる。
「そんなふうにダンジョンを歩き回って、地図を埋めるのが、あんたらの仕事や」
「なるほど……理解しました」
「そんで、ほい」
クゥコがリュージに、小さい白墨を手渡す。
「チョークですか?」
「そや。ええか、リュージ。あんたにはダンジョンを歩き回ってもらうわけやが、闇雲に歩いてもらっちゃ困る。仕事は地図を埋めるってさっきいったやろ?」
リュージ達がうなずく。
「となると、や。先に入った人が、行った場所……たとえば分かれ道には、行って欲しくないんや。意味分かるか?」
「えっと、先に入ったひとが通った道を行っても、すでに地図ができあがっているから無駄ってことですか?」
「せや」
とクゥコ。
「あんたらには先に入った人間とは、別のルートを行って欲しんや」
クゥコが白墨をポケットから手に出して言う。
「分かれ道があったら、その左の壁を見て欲しい。×印が書いてあったら、そのルートはすでに誰かが通ったちゅー意味や」
「なるほど……。じゃあ僕らは×のないルートを選んで、そこへ行くときは、壁に×印をすればいいんですね」
「せやせや。賢い子ぉで助かったわぁ」
にこーっとクゥコが笑って言う。
カルマは誇らしかった。胸を張って、そうでしょうぉおおお! 息子は賢いのぉおおお!
と叫びたくなるのを……ぐっとこえらた。偉いって褒めて欲しかった(息子に)。
その一方でクゥコが締めに入っていた。
「あんたらには1階層のマッピングを頼みたい。半日この1階層をぐるぐると徘徊。2時間ごとにここへ戻って生存報告すること。以上。質問は?」
「ではおか……私から。モンスターが出たときの対応はどうするのでしょうか?」
「そりゃあんたらで適宜対応してぇな。戦うもよし、逃げるもよし。ただ地図を作るっちゅーのが、あんたらの仕事ってことだけ忘れんといてや」
「臆してその場から一歩も動けなくなるなということですね……」
リュージの言葉に、クゥコがうなずく。
「ギルドから能力の高いやつらを送ってもらった。やから、うちはあんたらを信頼している。……が、無理そうなら早めに言うてな。死んでもらったら困るさかい」
死ぬという言葉を聞いて、息子がビクッ! と身体を硬くした。
「この遺跡にはどの程度の強さのモンスターが出るのですか?」
とカルマ。
「はっきり言うてそれを調べるのもあんたらの仕事や。何せ見つかったのが最近やから、なんもかんも未知数やねんな」
「地図を埋めるだけで良いのではないのですか?」
「大きい仕事はそれやが、これは遺跡【調査】や。当然その遺跡内で出会ったモンスター、宝箱、トラップ……そのほか諸々の情報も地図に書く必要がある」
「意外と大変な仕事ですねこれ。息子……じゃない。リュージさんたちだけでは荷が重いのでは?」
「やから大人数で調査してるんや。なに、別にモンスターを全て倒せとか、宝箱を全部見つけてこいとか、そーゆーこといってるんとちゃうわ」
「……その、あの、えとえと……。あくまで、出会ったら、見つけたらってはなし、なのです?」
「そーゆーことや。目撃情報だけでもそれも立派な情報や。勝てそーないと思ったら逃げる。どんなモンスター出てきたってだけ教えてくれればそれでええわ。とにかく無理せんでな。おーけー?」
最後にクゥコが念を押してくる。
いよいよ冒険に出発することになるが……。
息子の顔は、固かった。そして少し青ざめてるようだ。
無理もない。
初めて見つかった遺跡。
迷子になるかも知れない。どんな敵が出てくるかも未知数。
未知ほどこの世に、怖いものはない。
それでも逃げず、挑もうとする息子が……かっこ良かった。
まあ息子は世界で一番かっこいい生き物だけどな。
それはさておき。
カルマはリュージの側に寄る。
そして息子の肩に、ぽん……と手を置いた。
「安心してください、リュージさん」
にこっと笑ってカルマが言う。
「カーサンがついてます」