31.邪竜、【友人】の家に泊めてもらう【後編】
息子とその友達が、ラブコメしているなんてつゆ知らず。
一方その頃、邪竜カルマアビスはというと。
懐かしい人物との、再会を果たそうとしていた。
王城へ来てから、数時間後。
カルマはこじんまりとした、個室にいた。
何もない簡素な部屋だ。
ベッドにソファくらいしかない。
カルマはソファに座りながら、そわそわ……とせわしなく肩を揺らしていた。
「チェキータ。帰っても良いですか」
カルマはちらり、と隣を見やる。
ソファの側には、監視者のエルフがたたずんでいる。
「息子達の様子がとても気になるのです」
「だめよぉ。あなた、あの人に無理言って泊めてもらったのよ? せめてありがとうくらい、直接言わないとね」
「いやまあそうですが……。ああ心配です。息子がシーラと良い雰囲気になっていたどうしましょう」
「…………」
「なんですチェキータ。にやにやして」
「いやぁ。カルマ、あなたってエスパーなのかな~って、お姉さん思ったのよ」
「? わけわからないですね、この無駄肉エルフは」
と、そのときである。
「お待たせしてもうしわけございませんわ」
と、誰かがドアを開けて、入ってきたのだ。
チェキータが居住まいを正す。
そして先ほどまであった軽薄な態度をやめて、その人の前で腰を45度折り曲げて、頭を下げた。
「ヒルダ様。夜分に申し訳ございません」
「かまいませんわチェキータ。わたくしもちょうど、カルマとお話ししたいところだったのよ」
その人はこつこつ、とヒールをならしながら、カルマ達のそばまでやってくる。
カルマはソファに座ったまま。
「あ、どうもヒルダ。お久しぶりですね」
と気軽に答える。
「……カルマ。あなた王の御前よ?」
チェキータが声を潜めてカルマに注意する。
「いいのですよチェキータ。カルマはわたくしの友人です。王の御前なんておもわなくていいわ。楽にして」
「ええまあ、最初から楽にしてます」
カルマがソファに腰掛けた状態で言う。
その人物……ヒルダは、クスクスと笑って、カルマの正面のソファに座る。
そこにいたのは……若々しい女性だ。
ふくよかな乳房。肉付きの良い体つき。
ふわふわとした髪のてっぺんには、きらりと光る王冠が乗っている。
微笑をたたえるその美しい顔には、シミもしわも見受けられない。
簡素なドレスに身を包んだその女性こそ……この国の王、女王ヒルダだ。
「ヒルダ。不思議なのですが、どうして百年以上前から容姿が同じなのですか?」
カルマは不思議に思う。
この女王と初めて会ったのは、カルマが邪神を倒した115年前。
邪悪なる神を倒した功績をたたえ、女王が自ら、カルマの元へ謝礼へと訪れたのだ。
そのときとこの目の前の女王は、まったく同じ容姿をしている。
これがエルフならわかる。
だがヒルダの耳は人間の耳をしていた。エルフ……ではないだろうに、100年近く経っても、彼女は彼女のままだ。
「わたくし美容と健康にはとっても気を遣っていますのよ」
「いやいやだからって限度ってものがあるでしょうに。あなた軽く100歳は超えてますよね? どうしてそんな若奥様みたいな姿を保っていられるのですか?」
するとヒルダは「乙女の秘密です☆」とかわいらしくウインクした。
答えをはぐらかされたな……とカルマは思った。
「ま、どうでも良いです」
それよりとっととお礼を済ませてこの場を退散しよう。
カルマはぺこっ、と女王に頭を下げる。
「このたびはわがままを聞いてくださり、ありがとうございました」
カルマの言う友人とは、女王ヒルダのことだ。
そして友人の家とは、この王城のこと。
宿がいっぱいだからと、この王城に息子達を泊めてもらったのである。
「いいのよ、気にしないで。それよりリュージくんは大きくなってたわね」
「ええっ、おかげさまで!」
「とってもイケメンに育ったわね」
「ええっ、ええっ! そうでしょうともそうでしょうともっ!」
女王ヒルダは、監視者を通して、カルマの動向を把握していた。
それは仕方のないことなのだ。
世界の破壊をたくらんでいた邪神を食らった存在、カルマ。
この世界でカルマにかなう人間は誰1人としていない。
まさに超強力な生ける最終兵器とも言える彼女を……野放しにしておくわけにはいかない。
だからチェキータという監視者をつけて、カルマの行動を見張っているのだ。
まあ基本チェキータは透明のまま、傍観を貫いているので、別に一緒にいて苦ではないので、監視されてようと平気だが。
「リュージくんもそうか、15歳なのですね。とっても立派になってましたわぁ」
「ふふそうでしょうとも」
「きっとカルマ、あなたの育て方が良かったのね」
「えへっ! そうかなぁ~……」
えへえへ、とだらしのない笑みを浮かべるカルマ。
「よろしければカルマ、リュージくんの近況を聞かせてくれないかしら」
「しょ、しょうがないですねぇ!」
ま、まあ、息子達に宿とそして食事まで用意してくれましたのだ。
その代金として……特別に、息子の近況を話してあげてもいいかな。
カルマはルンルン気分で、ヒルダに近況を語る。
ヒルダはそうなのね、と楽しそうに、相づちを打つ。
結局その日は日付が変わるまで、女王と息子話でもりあがったのだった。