30.邪竜、壊れた橋をコッソリ修理しに行く
いつもお世話になってます!
カミィーナの街を出発して数時間後。
あと1,2時間で、王都シェアノへと到着するとなった頃の出来事だ。
息子達とカルマは、街道の脇に馬車を止めて、休憩を取っていた。
「リュー…………ジさん、あとちょっとで王都なんですよね?」
折りたたみのイスにすわり、リュージ達はお茶を飲んでいる。
ちなみにこのお茶は、シーラが入れたものだ。
休憩になったと同時にてきぱきとお湯を沸かし、お茶を入れたのである。ぷらす5ポイント。
「ええ。今日は王都で一泊して、明日ザクディラへ向かいます」
「しーら、王都は初めてなのですっ! たのしみなのですー!」
隣に座るシーラが、にぱーっと笑いながら、「あ、クッキーどうぞなのです」と、自前のクッキーを息子に手渡している。
「ありがとうシーラ」
「いえいえー」
ふふふ、と微笑んでいるリュージとシーラ。
「むむ、細かい気配り、ぷらす5ポイント……」
「カーサンさんもどーぞなのです」
「ありがとうございますシーラさん」
シーラお手製のクッキーは美味しかった。サクッと歯ごたえ。
イチゴジャムとクリームチーズがのっており、濃厚かつさっぱりとした味わいで美味い。
「ぐぬぬ……おやつも上手とは……。これはもう認めるしかないのか……」
嫁としての能力の高いシーラに、カルマはその能力を認めつつも……やっぱり息子に嫁は早い! と思うカルマであった。
と、みんなで休憩を取っていたそのときだった。
つんつん。
と。
カルマの肩を、誰かがつついてきた。
肩の方を見る。誰もいなかった。
だがカルマはそれだけで、【誰】のしわざなのかわかった。
「すみません、リュージさん。ちょっと向こうの景色を見てきてもいいですか?」
リュージがうなずいた後、カルマはその場をこっそりと離れる。
リュージ達から離れた場所で、カルマはつぶやく。
「なんですかチェキータ?」
周囲には草原が広がっているだけだ。周りに人などいない。
が。
次の瞬間、前触れもなく、
「ちょっとトラブルみたいよ」
と、カルマの目の前に、長身のエルフが出現した。
垂れ目の金髪エルフ、監視者のチェキータだ。
「というか話しかけてこないでくださいよ。あなたは監視者。私のすることを姿を消して見張るのが役目でしょうに」
「まあまあいいじゃないの」
ぽんぽん、とチェキータが肩をたたいてくる。
カルマがその手をペしっと払いのけ、尋ねる。
「それでトラブルって何があったんですか?」
「どうもね、この先の川で事故があったらしいのよ」
「事故?」
「この先にテクマ川って川があるの知っている?」
「いえさっぱり。その川で事故?」
チェキータが腕を組んで、うなずいていう。
「橋が川の増水で壊れたみたいで、通行止めになってるみたい」
「増水……。ああ、昨晩は結構雨降りましたからね」
「そ。で、今朝からずっと通行止め。迂回のための橋はあるんだけど、みんなそっちにいくから、その橋の前は大渋滞してるわ」
「今日中に王都へたどり着けない可能性がありますね」
そもそもその迂回路となっている橋も、壊れた橋から数十キロは離れているらしい。
時間がかかるのは明白だ。となると野宿になるかもしれない。ふざけるな。外で寝て息子が風邪を引いたらどうする!
「それでどうする? 迂回するの?」
「はんっ。そんなことするわけないじゃないですか」
カルマは「変身」とつぶやく。
するとカルマは人間の姿から、見上げるほどの大きさの邪竜の姿へと変化する。
【橋をなおしてきます。あなたは私の……カーサンのふりをしてなさい】
バサッ……! とカルマが翼を広げて飛び上がる。
「認識阻害のメガネって便利よねー。別人になりきれるんだもの」
あのメガネを使えば、カルマ(人間体)にも、カーサンにもなることができるのだ。
【私がいない間にカーサンがいないとなると不都合です。あなたが私のふりをしてなさい】
「いいわ。お姉さんが手伝ってあげる。でも本当は監視者って対象に干渉しちゃダメなのよ?」
【さんざん干渉してきて何を言ってるんですか】
カルマはため息をつくと、翼を広げて強く羽ばたく。
天高く、遙か上空までやってきたカルマ。
そこから最上級転移を使って、壊れた橋の遙か上空までやってくる。
【橋の前に転移すると、人目につきますからね。作業するにも都合が悪いですし】
カルマは上空からテクマ川を見下ろす。
橋が中腹の部分で、壊れて、なくなっていた。
【てゆーかなんですか、あの橋。木製じゃないですか! しかもなんか作りが安っぽいぃ!!!】
がーーーーー! とカルマが口から怒りの炎をはき出す。
【もし橋が壊れてなかったとしても、あーーーんなぼろっちぃ橋! 渡ってる途中で壊れる可能性大じゃないですかっ! 息子を乗せた馬車が川に落ちたら、どーーーーー責任取ってくれるんですか!!】
責任者出てこい-! と憤怒するカルマ。
【こうなればものすんごいの作っちゃいますよ! 頑丈で! 百人乗っても大丈夫なやつを!】
上空に留まりながら、カルマはスキルを発動させる。
【万物創造】
カルマは壊れた橋の真横に、頑丈なレンガの橋を出現させる。
【もし橋が壊れてしまったときように、橋のところに救命道具をおいておきましょう。さらに落ちてしまっても橋に戻れるように、足の部分にはしごを……】
と、カルマは思いつく限りの細工を、レンガの橋に施していく。
ややあって、
【ふぅー……。完璧です。これでりゅー君達が川に落ちる心配はない。さて帰りますか】
と、そのときだ。
「な、なにこれー!?」
と、地上から、マイ天使リュージの声が聞こえるではないか。
地上を凝視すると、川のほとり、橋の前で、息子達と馬車の姿があった。
【し、しまった! 橋作りに時間をかけすぎてしまった-!】
正確には橋を作った後の細工に時間がかかったのだが。
それに時間をかけている間に、休憩を終えて、リュージ達が馬車でテクマ川までやってきていたみたいだ。
カルマは【聞き耳(最上級)】スキルを発動。
神殺しのスキルの一つだ。遙か遠くにいる人物の話し声を聞くことができる。
「こ、壊れた橋のとなりに、なんかすっごい立派な橋があるのです-!」
「ギルドの話だと橋は一本しかないって言ってたのに……」
驚く二人。
その後に、カーサンに変装したチェキータが立っている。
チェキータが遙か上空、見えない場所にいるはずのカルマに向かって、にやりと笑って手を振ってきた。
「でも良かったじゃないですか。これで川を渡れますよ」
とチェキータ。
「それはそうなんですけど……」
リュージは壊れた橋と、そして新しくできてる橋を見て、何かに気付いたような顔になる。
「母さん……」
リュージがため息とともに、苦笑する。
「もうっ。ほんと……。お節介焼きなんだから」
どうやら母の所行であると、聡い息子は瞬時に悟ったらしい。
リュージが、その場にいない母に向かって微笑み、
「……ありがとう、母さん」
とつぶやいた。
それは独り言のつもりだっただろうが、スキルを使っているカルマの耳には、ばっちりと聞こえた。
【う、う、嬉しすぎますよーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!】
ごわああああああ! と空に向かって、カルマはブレスを吐いたのだった。
お疲れ様です!
次回もお昼くらいに投稿します!
ではまた!