29.邪竜、初めての戦闘【後編】
息子達と、目的地に向かう途中の街道にて。
リュージ達を乗せた馬車は、ワルイド・ハウンドの群れに囲まれた。
犬型のモンスターだ。
白い体毛と、鋭い牙が特徴的だ。
その数はぱっと見る感じで、10。
ハウンドは常に群れで狩りをするため、まあこんなくらいの数だなと思う。
「よし。シーラは後で魔法の準備。僕とカーサンは前でシーラの時間稼ぎだ! いくよ!」
「はい」
カルマは答える。
ようするに、息子とシーラに、危険が及ばないようにすればいいということだ。
カルマは身をぐぐっ、と縮ませる。
そして。
ドンッッ……………………!!!!
と、天高く飛び上がる。
「へっ!?」「はわわっ!?」
息子達がびっくりする姿が、地上にある。
カルマは飛び上がった後、剣を握った手で拳を作り、ぐぐっと後に腕を引く。
身体が重力にひっぱらられて、地上へと落下。
その落下の威力と、そして引いた拳を勢いよく前につきだし、地面に拳を突き立てる。
ドゴオォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!
上空に飛び上がって、落下からのパンチ。
ただそれだけのことで、地面に隕石が落ちたかのような、クレーターができた。
突風がふきすさび、10匹いたハウンドたちが、空の彼方へと吹き飛ばされていく。
むろん息子達と馬車には、【結界】の魔法をかけているので、身の安全は保証されている。
ハウンドたちはきれいさっぱりと、どこかへと飛んでいった。
「ふぅ……危機回避です」
剣を持った手で、額をぬぐうカルマ。
あ、そういえばこの剣、使ってなかったわと今気付くカルマ。
剣を腰に納めて、息子の元へ駆け寄る。
「大丈夫ですかっ? おけがはありませんかっ?」
何せ恐ろしい敵に囲まれたのだ。
息子がもしかして、どこかにケガをしてしまったのではないか。
いやそもそも、怖い敵に囲まれて、心に傷を負ってしまっていたらどうしよう!
と心配で不安で心配でしかたなかった。
「…………」
リュージは腰を抜かしていた。そして「す、すごい……!」
と、きらきらした目を、カルマに向けてきた。
「すごいですカーサン!」
純粋な尊敬なまなざしを、息子が向けてくるではないか!
いつもはカルマが何かをすると、余計なことしないで! と怒る息子が。
今日に限って、喜んでくれている!
「すごいです、とっても強いんですね! さすがSSSランク冒険者!」
「へ、へへ……ふへへ……そ、そんなぁ……たいしたことないですよぉ……」
やばい。嬉しい。嬉しすぎだ。
息子からこんなふうに、「すごいすごい!」と喜ばれたこと……なかったから。
しかしそうかとカルマは思う。
リュージから見れば、今のカルマの行動は、母でなくSSS級冒険者の活躍に映る訳か。
実力に見合う活躍であると、解釈してくれるわけだ。
「すごいですカーサン……僕もあなたみたいに強くなりたいです……」
また息子がカーサン(母さん)と呼んでくれるのも良い。
まるで自分が褒められてるみたいで、とても良い。
「なれますよりゅー…………じさんなら。私なんかよりも強く」
カルマは確信を持って言う。
なにせ神にも等しい天上の存在である息子だ。
たかだか邪神を食らった程度の母なんて、すぐに追い越してしまうだろう。
カルマは確信を持ってそういった。
と、そのときだった。
「りゅーじくん! 追加で敵がきましたのです!」
「なんだって!?」
シーラの指す方を見ると、たしかに、ワイルド・ハウンドの群れが、こちらに近づいてくるではないか。
カルマは思い出した。
ハウンドたちは群れで狩りを行う。
そして、必ず挟み撃ちするように、群れを2分割して狩りをすると。
やつらは生粋の狩人。獲物を確実に捕らえる戦法をとってくるのだ。
「くそっ!」
リュージは焦っていた。カーサンとの会話に夢中で、周りの警戒を怠っていたことに。
カルマは「大丈夫ですリュージさん! お母さんに任せてください!!」
カルマは剣を抜いて前に出る。
剣を持った手を前に突き出す。
魔力が手に集まる。
それは普段の万分の一程度の、ごく微量の魔力だ。
「【炎槍(ファイア・ジャベリン)】!」
カルマ基準で微量の魔力が、手から極大の炎の槍を作る。
数にすればおよそ1000。なんとも少なすぎる数だ。
カルマの発動した炎の槍は、こちらに向かってくるワイルド・ハウンドめがけて、飛んでいく。
ドドドドドドドドドドドドドドド………!!!!
と機関銃の発砲音のように、絶え間なく
炎の槍が飛来し、地面や、敵にぶつかる。
敵は10しかいなかったので、残り990発は、地面にぶつかる。
あたりを穴だらけにし……後には、静寂が残された。
「ふぅ……」
カルマは剣を腰に戻す。
なんか剣いらなくね? と思いながら、リュージ達の方を見た。
「はぁあ……」「はわわぁ……」
ふたりともが、キラキラとした目を、カルマに向けてくるではないか。
「すごいです!」「さすがカーサンさんなのですー!」
わあわあ! と純粋に、息子達が喜んでくれるではないか!
これはなんだ、ご褒美なのか……?
とカルマは戦慄する。
今まで、自分がよかれと思ってやったことは、すべて、息子にとっては迷惑なことだった。
だがしかし、今は息子が、純粋に喜んでくれている。すごいと言ってくれる。
「こ、これはもう……やみつきになりそうですよぅ……」
しあわせそうな笑みを浮かべながら、
「ふたりとも無事で良かったです」
と笑顔で答えた。
その後は息子達からすごいすごいと連呼されて、軽く気を失いかけた、カルマであった。
お疲れ様です!
次回もお昼くらいに投稿します。
ではまた!