29.邪竜、初めての戦闘【前編】
お世話になってます!
息子の冒険についてくことになった、邪竜カルマアビス。
今回は認識阻害のメガネを使って、母カルマから、冒険者カーサンへと偽装して、同伴することになった。
面接を行った2日後。
カルマは息子達ともに、馬車にゆられていた。
「ああ、りゅー君……。身分を偽って冒険について行く、罪深きお母さんをおゆるしください……」
馬車の荷台にて、カルマは胸の前で手を組んで、祈る。
「あの、あのあの……カーサンさん。何に祈っているのですか?」
隣に座るウサギ獣人のシーラが、カルマに尋ねてくる。
「神様に祈っていたのです?」
「ええ、そうですシーラさん。息子に祈っていました」
「む、息子ぉ? 神様ではなく?」
「? 息子は神様でしょう?」
真顔で首をかしげるカルマを、シーラがじぃっと見てくる。
「どうしました?」
「あの……えと、しーらの知り合いのひとに、カーサンさんが、似ているなぁって思ったのです」
「ほぅ。そんな方がいるのですね」
自分の他にも、息子のことを、神や天使のように扱う人がいるとは。
たぶんその人とは気が合うだろう。是非とも紹介して欲しかった。
「リュージくんのお母さんなのですが」
なんだ自分のことか。ちぇっ。
「リュージくんのお母さん、息子おもいの、とっても優しい人なのです」
「ほ、ほほぅ……」
何気なさを装いつつ、カルマはにやけるのがとめられない。
嬉しくてしょうがない。ぷらす5ポイント!
とカルマの中の、シーラの嫁ポイントが上昇した。
「その人とってもきれいで、とってもお料理上手で、しーらとってもすごいなーって思ってる……とってもすごいひとなのです!」
「ほ、ほほほほぅ……」
ぷらす10! ぷらす15!
とポイントがうなぎ登りしていた。
カルマは思う。
ちょうど良い機会だなと。
息子達が、どういうふうに冒険しているのか。
もちろん彼らの冒険は、天空城を使って、ずっと監視していた。
しかしこうして、同じ視点で、息子達と一緒に冒険をしたことない。
こうして一緒にいることで……今まで見えてなかったことが、見えるかも知れない。
だから息子達のことを深く知る、良い機会だなとカルマは思った。
そして良い機会だ。
「……ためさせてもらいましょう。シーラ。あなたが息子の嫁にふさわしい人物か、どうかを」
ふふふ、カルマはメモ帳を取り出し、かきかきとポイントを計算する。
とりあえず息子の母を褒めた点は、大いに評価すべきだろう。
それはさておき。
カルマ達は現在、この国を北上していた。
目的地であるザクディラは、この国の東の端。
カミィーナは南の街。つまり北東に向かって進めば良いのだが、そうではない。
カミィーナとザクディラを一直線上に結んだとき、間には大きな山脈があり、まっすぐ北東へと進めないのだ。
なのでいったん北上し、王都シェアノを経由して、そこから東へ向かう。
という旅行日程である。
「しかし馬車は遅いですね」
荷台の窓から、外を見て、カルマがつぶやく。
飛べばすぐにつくだろうし、なんならテレポートを使えば、一瞬で目的地に到着だ。
だが飛んだりスキルを使ったりすれば、息子にカーサンの正体を明かしてしまう。
ぐっとこらえて、今はとろとろと走る馬車に揺られるしかなかった。
ちなみにリュージは御者の隣に座っており、周囲の警戒に当たっている。
本来なら天空城による監視システムが発動してるため、警戒なんて必要ないのだが。
だが息子が警戒する姿を邪魔したくないと、あえて、今回は監視を切っている。
また、自分が息子のそばにいるので、即応できるということも、周囲への警戒に力を入れない理由でもあった。
と、そのときだ。
「ふたりとも! 敵だよ!」
荷台の外から、息子の声がした。
「はいなのです!」
「わかりました」
シーラは杖を持ち、カルマは何も持たないまま、荷台の外へ出る。
馬車は街道の途中で停止している。
リュージは剣を抜き、前方を注視している。
ああ、警戒する息子の、なんとりりしいお姿か!!!
「尊い……」
とひとり興奮するカルマ。映像に残したいが、しかし記録の水晶を取り出すと、母であることがばれる。
まあ録画は別の人に頼んでいるので、今は我慢するとしよう。
「みんな武器の用意はいい?」
「はいなのです!」と杖を掲げるシーラ。
「ええ」とカルマは、腰からロングソードを抜く。
……と、言ってもだ。
カルマは不思議だった。
この【剣】って、何のために必要なのかなと。
竜の身体で生まれ落ちたカルマだ。武器を使ったことがない。
それにそもそも、邪神を食らい最強の存在となっているため、存在自体が最終兵器みたいなものだ。
人間の身体になっているとしても、武器の必要性を感じない。
だがまあ、冒険者っていったら剣だし。
なにより息子とおそろいのものを持ちたい。
という理由で、剣を使うことにした次第だ。
リュージが剣を構えたまま、前を見据えて言う。
「来るよ!!」