28.邪竜、息子に面接される【後編】
母そっくりの新人冒険者、母さん息子好き……じゃない、カーサン・ムースコスキーと邂逅を果たしたリュージ。
一時はこの人、母カルマではないか?
と疑いをかけた。
母が変装しているのではないかと。
だが家に帰ると、母がいて【どうしましたりゅー君? 何か忘れ物でもありましたか?】
と普通に、家にいた。
もし仮に眼前のカーサンがカルマならば、家に母がいる訳がない。
ようするに、カーサンは母さんではないということだ。
リュージはカーサンとの面接を進めることにした。
「えっと……カーサンの職業はなんですか?」
リュージなら剣士、シーラなら魔法使いと。
冒険者をやるのなら、誰しもがひとつの職業についている。
カーサンはうなずいて、自信満々に答えた。
「母親です!」
……。
…………。
…………はい?
「あの……職業の話をしているんですけど……」
「はい。だから私の職業は母親です」
「母親……なんて、職業、あるの? シーラ」
「ええと……聞いたことないのです」
ひそひそ、と隠れて話し合うリュージとシーラ。
カーサンに向き合って尋ねる。
「母親……なんて職業あったんですね。知りませんでした」「ごめんなさい!」「ごめんな……え、なんでカーサンが謝ってるんですか?」
カーサンは「りゅーく、りゅー……リュージさんは悪くないのに、謝らせてしまったことに、ごめんなさいって謝ったのです」
といまいちどういうことか、わからないことを言う。
「お母さ……私がわかりにくい職業に就いてるのが悪いのです。悪いのはあなたではありません。気に病む必要はありません」
真顔でそんなことをおっしゃるカーサン。
まああまり話を蒸し返しても、気まずい雰囲気になるだけだ。
ということで、リュージは話を進める。
「ステータスの写しを見せてもらいましたが……凄まじい数値ですね」
リュージはカーサンから、自らのステータスが書いてある紙を受け取っていた。
そこには、全部のステータスが9000オーバーという、とんでもない数字が書かれていた。
むろん虚偽ではない。
この数値は、ギルド側が測定した数値を、そのまま印刷したものだから。
「……あれぇ。おかしいです。弱体化の魔法を1万回もかけたのですが」
ぶつぶつ……とカルマが何かしらを言う。
リュージは聞き間違いだと思った。
先ほどのカーサンの言葉が、リュージの聞こえたとおりなら。
弱体化の魔法を1万回かけて、この全ステータス9000以上という化け物じみた数字である、と。
もしそれが本当なら、目の前の人物は、もはや人間の領域を超えた、正真正銘の化け物となる。
いやでも……まあ聞き間違いだろう。
とリュージは考えを否定する。
その一方で、シーラがカーサンに、質問していた。
「えと……えとえと。母親って職業は、前衛なのです? それとも後衛?」
カーサンはシーラを見ながら「前衛でもあり後衛でもありますね」と答える。
「母とは時に、前に出て息子……いえ、仲間を守るもであり、そして時には息子……いえ、仲間を後で支える存在でもあるのです。なのではっきりとどちら、とは言い切れません」
聞いたことのない職業。
前衛でも後衛でもないという。
説明を受けても……全然まったく、これっぽちも、【母親】という職業の全貌が見えてこなかった。
「ようするに……えっと、前衛で戦うこともできるし、後で支援することもできるってことですか?」
「そのとおりですリュージさん。魔法も6属性全て使えます」
魔法には地水火風+光闇の6属性がある。
光魔法は回復術であり、闇魔法は俗に召喚魔法と喚ばれている。
「攻撃も回復も魔法も使える……すごい……オールラウンダーだ」
リュージは尊敬のまなざしを、カーサンに向ける。
「ええっ、ええっ! 【母親】とはすごい職業なのですよー!」
となんだか知らないが、カーサンはルンルンと上機嫌だ。
自分の職業に誇りを持っているのだろうな、とリュージは解釈した。
「それでどうでしょう、私を入れていただけますか、リュージさん。シーラさん?」
今度はカーサン本人が、面接官達に聞いてきた。
「ステータスは……申し分ないです。というか、僕らにはもったいない、申し訳ないくらいです」
うんうん、と隣でシーラがうなずいている。
カーサンは「何をおっしゃいます!」と慌てて首を振るった。
「むしろ私の方が申し訳ないくらいですよ! 私ごときが、リュージさん達のパーティに入ろうとするなんて! ああ! 罪深いぃいいいい!!!」
となんか誰かを想起させる、リアクションを取るカーサン。脳裏でカルマが【やぁ】と笑顔を浮かべていた。
「それでどうでしょう? 私としてはあなたのそばにいたいのですが」
「僕らは良いんですけど……その、最後に、聞いて良いですか?」
「はいはい、なんでしょう?」
リュージは首をかしげながら尋ねる。
「これだけ強いのに……どうして、僕らみたいな弱小パーティに、入ろうとしてるのですか?」
最大の疑問だ。
この超大型新人は、この最強の新人は、何を思って、リュージ達のもとへ来ようとしているのか?
カーサンは真剣な表情でうなずいて、言った。
「それはリュージさん、端的に言えば……」「言えば?」「あなたが好きだからです」
さらっと。
実に、さらり、と。
まるで、今日の天気は晴れですねと。
そんなふうに、気軽に、この美女カーサンが、リュージに言ってのけた。
「どどど、どういうことー!?」
「つつつ、つまりひとめぼれってことなのですー!?」
リュージ(そしてなぜかシーラも)は、動揺しまくりながら、カーサンに聞く。
「言葉通りです。リュージさん。私はあなたが好きなんです。好きな人のそばにいたいと思う気持ちは、間違ってますか?」
「いや……その、間違ってないとは思うけど……」
うんうん! とシーラが強くうなずいていた。なんで?
ちら、っとカーサンがシーラを見て言う。
「ああでもご安心ください。恋愛感情のたぐいは持ち合わせてません」
……。
…………。
…………ん? んんっ?
「は、え? なにそれどういうこと?」
リュージは混乱の境地にいた。
カーサンは、リュージがすき。
だからリュージのパーティに、入りたいという。
ここまではまあ、わかる。
問題は、好きなのに、恋愛感情がないことについてだ。
「ふ、ふつーは、その……す、好きなら、こ、恋人になりたいって思わないのです……きゃぁあ」
わあわあ、とシーラが顔を真っ赤にして、顔を手で覆いながら尋ねる。
「シーラさん。それは安直です。好きの形も千差万別。すべての好意が恋愛に直結するわけではないのですよ」
すらすらと、恋愛観を述べてくるカーサン。
そこからは大人の余裕を感じさせられた。
まるで監視者エルフのチェキータのようだった。
「そういうわけです。私はリュージくんが好きだからおそばにいたい。仲間に入りたい。仲間に入れてくれますか?」
「えっと……」
正直、怖い面もある。
わかってない部分が、多すぎる。謎の部分が、あまりに多すぎた。
だがしかし。
それでも……。
こんな、超期待のルーキーが、わざわざ、自分たちの仲間になりたいと、志願してきた。
これは、またとないチャンスだった。
強い仲間がいれば、そのぶん、遺跡調査を安全に進められる。
そうすれば……母の不安を、少しでも軽減させられる。
考え込んだ結果、そして、シーラと協議した後、
「じゃあ、お願いします。カーサン」
「はいっ! よろしくです! リュージくん! シーラさん!」
かくしてリュージ達のパーティに、超強力な助っ人が加入したのだった。
お疲れ様です!
次回から冒険に出発します!
次回もよろしくお願いします!
ではまた!