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28.邪竜、息子に面接される【前編】

お世話になってます!



 さて息子リュージの元に現れた、黒髪の新人冒険者。


 言うまでもなく、正体はカルマである。


 カルマは昨晩、【認識阻害】の加工が施されたメガネを作った後、ギルドへ行き、冒険者となった。


 その詳細は省く。まあたいしたことはしてないし、たいしたことではない。


 最大の問題はここ。


 息子が、果たしてこの【期待の新人】を、自分のパーティに入れてくれるか。


 それだけが、最大の懸案事項だ。


 それはさておき。


 話はリュージ達に声をかけてから、10分後。


 冒険者ギルド、ギルドホールの片隅の、テーブルにて。


 カルマは今まさに、息子達から、面接を受けようとしていた。


 面接。すなわち、本当に息子リュージのパーティに、自分カルマがふさわしいかを、試す場。


 いわば決戦場。


 負けるわけには……いきませんよぉ! 


 私は息子のパーティに入るのです!


 とカルマは内心で奮起した。

 

「えっと……とりあえずまずは、お名前をうかがっても良いでしょうか」


 カルマはうなずいて言う。


 むろん本名ではない。


 偽名を……言う。


「【カーサン・ムースコスキー】です」


 カルマは息子に、偽名を使うという、罪深き行為をしたことになげきつつ、内心で会心の笑みを浮かべる。


 カーサン・ムースコスキー。


 完璧な偽名だ。


 この名前から、カルマアビスを連想する要素は、一切なかった。


 唯一【カ】だけが共通点だが、しかしそれだけで、自分がカルマだと。


 いくら息子が聡明で宇宙一の天才的な頭脳を持っているからと言って……。


 それに気付くことは……不可能。


 それくらい、私の偽名は完璧ですよぉー! とカルマ。


 さて……。


 一方でリュージはと言うと。


「…………え? あの、え? ええっと、え、なんて?」


 と聞き返してくる。


 カルマは堂々と、さっき言った偽名を告げる。


「カーサン・ムースコスキーです。初めまして。りゅーく……リュージさん、シーラさん」


 ぺこ、とカルマは頭を垂れながら、ふふふ、と内心で笑う。


 我ながら完璧な偽名。一分の隙もないネーミング。いやぁほれぼれしますね!


「えっと……カーサン、さん。ちょっと席を外しても、良いでしょうか」


「は、え? あ、はい。良いですが……」


 息子が席を立った。


 な。なんだどうしたんだろうか? 


「あの、りゅーじくん。どこへ行くのです?」


 隣に座っていたシーラが、息子を見上げて尋ねる。


「えっと、ちょっと家に帰って、母さんがいるかどうか確認してくる」


 疑いのまなざしを、カルマに向けながら、息子が言ってきた。


「それはいいのですが……えと、りゅーじくん。何しに行くのです?」


「ちょっと確認。この人……もしかして母さんじゃないかって思ってるんだ」


 カルマは内心、動揺する。


 なんで息子は、カーサン=お母さんカルマであることに、気付いたのだ。


 疑われるようなことをしただろうか。


 と。


 しかし。


 しかし……である。


 息子の頭脳が、神の領域を超えていることは想定内。


 息子の卓越した洞察力により、カーサンがカルマであると疑いをかけてくるのは、あらかじめわかっていたことだ。


「…………」


 リュージがいったん席を外し、あとにはシーラとカルマのみが残される。


 ややあって、息子が家から、帰ってきた。


「あの……カーサンさん」


 リュージは席に着く前に、ガバッッ……! と頭を下げて言う。


「すみませんでしたっ!!」


 敬語+謝罪。


 ここから導き出される答えは一つ。

 

 カルマは「いえいえ、お気になさらないでください」と微笑んで返した。


「りゅーじくん、どういうことです?」


 シーラの問いに、リュージが答える。


「母さん、普通に家にいたんだ」


 そう……。


 リュージがカルマに気付いて、家に帰り、母の不在を確かめに行くのは想定内だった。


 だからこそ、カルマは最初から手を打っておいたのだ。


 やり方は単純。この認識阻害のメガネをもう一つ作り、監視者のエルフにかけさせる。そして家にいるよう指示する。


 このメガネは、かけると他者の認識を自在にズラすことができる。


 リュージの認識は、メガネによって、チェキータからカルマへと、ずらされたのだ。


 これでカーサン=カルマ、という図式は完全に崩れたことになる。


 なぜならカーサンはこの場から一歩も動かず、カルマは家にいたのだから。


 カーサンとカルマは別物であると、リュージは認識したわけだ。


「本当にすみませんでした。カーサンさん」


 謝る息子にごめんなぁああああ! とむしろ謝りながら、カルマは言う。


「気にしないでください。他人のそら似という言葉もありますしね。あ、それとお母さんのことはカーサンと呼び捨てて良いですよ」


「はい。わかりましたカーサン。……ん? あの、カーサン。いま一人称が変じゃなかったですか?」


「え、そうですか? 気のせいでは?」


「そ、そうですか……そうだよね。うん。母さんとカーサンは別人、だからね」


 字面にするとおまえそれ一緒だからな、だが、口にするとイントネーションは異なるので、意外と別物に聞こえる。


「えっと……カーサン。それでは……その、いろいろとお聞きしてもいいでしょうか?」


「ええ、かまいません。どんとこいです! お母さん何でも答えますよ-!」「え?」「ああ間違った私なんでも答えちゃいますよー!」


 波乱の面接の幕開けだった。


 

 

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