27.息子、期待の新人冒険者から仲間にしてと頼まれる
お世話になってます!
母とケンカをしてしまった、翌日。
リュージは暗い表情で、とぼとぼと、冒険者ギルドへ向かっていた。
「りゅーじくん。どうしたのです?」
隣を歩くのは、うさぎ獣人の少女シーラだ。
「……え、ああ、うん。なんでもないよ」
笑って返したリュージだが、シーラの表情は晴れない。
「なんでもないって顔をしてないのです。つらそう……。昨日のことなのです?」
「…………」
言うかどうか、迷った。
だが結局は、
「大丈夫。なんでもないよ。心配させてごめんね」
と本音を包み隠してしまった。
……本音を言うのはたやすい。
母とケンカして、母を落ち込ませてしまった。そのことを気に病んでいると。
だがそれは……どうしようもなく、他者に、特に異性には、告げられなかった。
思春期まっただ中のリュージにとって、母親のことで思い悩むなんて、そしてそのことを同世代の異性に相談するのは……かっこわるいと思ったからだ。
「……そっかぁ」
シーラは晴れやかな表情……にはなってなかった。
「言いたくないのなら、無理に言わなくてのいいです」
ちょっとさみしそうな顔で言った。
「あ、別にシーラのことを信用してないとか、そういうのじゃないからね。ほんと、何でもないだけだから」
知らず、早口になってしまう。
シーラに嫌われたくないがゆえだ。
そうやってシーラと雑談しながら、リュージ達は冒険者ギルドに到着した。
ギルド内は……ざわついていた。
みな受付の周りに集まっている。
「すげえ!」「天才だ!」「期待のルーキーの登場だ!!!!」
「何かあったのでしょうか?」
はてな、とシーラが尋ねてくる。
「さあ? ちょっと見ていく?」
いずれにせよ、受付には顔を出すつもりだから、そのついでに見に行こう。
リュージ達が奥の受付へと歩いて行くと、ざわめきが大きくなっていく。
「聞いたかおまえ! 昨日ギルドに入会してきた新人の話!」
「おうよ! なんでもとんでもなく強いんだってな!」
近づいていくと、噂話が、耳に入ってくるようになる。
「ああ。まず最初の段階で、強さがSSS級あったっていうぜ!」
ギルドは入会した際、特殊な機器を用いて、その人の実力を測定する。
リュージもやったが、最初はF級相当の強さだった。
「なんとレベルは999だとよ!」
「まっじかっ! それじゃステータスとかとんでもないことになってるんじゃないか?」
「ああ。全ステータスが9000オーバーだそうだ。これはかつて存在したという、伝説の勇者ユートの強さに匹敵するんだってさ!」
……話を聞いてると、とんでもない化け物新人が、ギルドに入ってきたらしい。
「すごい人ですね」
「うん。まあ、僕らには縁遠いね」
苦笑するリュージ達。
人混みが多くなっていく。
どうやらこの先に、その新人がいるらしい。
「しかも聞いてくれ。昨日の段階でクエストを受けたらしいんだ」
「それ俺も聞いた。S級モンスターの暴君・バジリスクを単独で倒したらしいぜ!」
「まじかよ! Sランク冒険者パーティが徒党を組んでも歯が立たなかった相手を、単身で倒したのかよ!!」
「ああ。しかも驚くべき短時間で倒したそうだ。近くでそれを目撃したやつがいたんだが……魔法も物理攻撃も、桁外れの強さだったらしいぜ」
噂を聞けば聞くほど、とんでもない新人が入ってきたみたいだ。
「そんだけ強ければ、もう周りから引っ張りだこなんじゃないか?」
「ああ。現にほら、各パーティたちが、その新人をスカウトしている最中だ。あの人の山は、全部パーティのリーダー達だよ」
「はぁあ……あれ全部がか?」
「そりゃあんだけ強い新人が現れたんだ。どこも引く手あまただろうよ」
……と、だいたいのうわさ話を聞きつけたところで、リュージ達は受付へと到着した。
そこでは、その新人とやらが、パーティ勧誘に合っていた。
「うちにきてくれ!」
「いや是非ともうちのパーティに!」
「ばかやろう! 俺のところに来てくれ!!」
……すごいなぁ。
とうらやましく思うリュージ。
「僕らは誰からもスカウトされなかったね」
「はぅ……リュージくん、落ち込んじゃだめなのです」
「うん。わかってる。ちょっと良いなって思っただけ」
しかしホント、これだけ大人数から期待される新人だ。
さぞ、強いことだろう。
まあ、自分たちには関係ない。
そんな強い人と、自分たちのような弱い人間が、パーティを組めるはずもないし。
勧誘せず、本来の目的である、受付へと向かった……そのときだ。
「ああっ! いましたっ! あの、すみませーん!!」
と。
どこからか、女性の声がした。
誰だと思って声の方を見ると、なんと、人混みの中心から聞こえてくるではないか。
立ち止まって見やると、そこにいたのは……。
黒髪、長身、巨乳の美女。
「え、か、母さんっ!?」
そう、母……かと思ったが。
「あ、人違いか」
と思い直す。
その人は、確かに母に似ていたが、全くの別人だった。
何せメガネをかけている。顔の形も違うし、何より目の色が紫色だった。
でも……よく見れば見るほど、母に似ている人だ。
だが不思議なことに、見れば見るほど、【この人は別人ですよ】と、思える。
理由はわからないが、とにかく【母かな?】と思って凝視すると、【別人だな】と認識がズレるのだ。
「そこのりゅーく…………んんっ! そこの人! ちょっと待ってください!」
黒髪メガネの美女が、リュージ達の前へとやってくる。
「あの……僕たちに何の用事でしょうか?」
この人が、みんなが言っていた超すごい新人だろう。
そんな期待のルーキーが、いったい僕らに何の用事だ?
「実はあなたたちにお願いしたいことがあるのですっ!」
「お願い……ですか?」
そのルーキーは大きくうなずくと、バッ! と頭を下げる。
「お母さ……私を、あなたたちのパーティに、入れてください!!!」
お疲れ様です。
次回もこのくらいの時間で投稿します!
ではまた!