26.邪竜、冒険者になる決意をする
お世話になってます!
息子から遺跡調査の件を聞いた、1時間後。
夜。
邪竜カルマアビスは、自室のベッドにうつぶせになっていた。
「はぁああああああああ………………」
顔を枕につっぷした状態で、深くため息をつく。
「いったいどうすればいいのか……」
すると……。
「困ったことになったわね、カルマ」
くる、と顔だけを横に向ける。
ベッドに縁に、監視者のエルフが座っていた。
「あなたは……また音もなく部屋に入ってくるじゃないですよ。プライバシーの侵害ですよ」
そもそも部屋には鍵がかかってたはずのだが。
「まあまあ。それで、どうして凹んでるのあなた?」
「……そりゃ、凹みますよ」
カルマはまた枕に顔をうずめる。
「りゅー君が遺跡調査にいくっていうから。それも1週間以上も。しかもついてこないでって……」
あの後、息子と『私もついて行きます!』『だめ!』『ついて行きます!』
の大バトルがあったのだ。
「ああ……ついて行きたい……。めちゃくちゃついて行きたいですよぉ」
ばたばた……と足をばたつかせる。
「ふふっ」
「……人が凹んでるのに笑うとか、性格悪いですよあなた」
「ん? そーう? お姉さん的には、リューの許可なく無理についていかないようなったぶん、成長したなって思ってね。娘が成長した母親の気分って言うのかしら、こういうの」
カルマはエルフを見やる。
慈愛に満ちた目を向けてきていた。
「……やめてくださいよ気色悪い。あなたは他人。なに母親面してるんですか」
「あら冷たい。100年以上つきあってるのよ。親近感もわくというものよ」
「けっ。私は別に親近感など覚えてないですよ。はぁ~…………ついて行きたいですよぉ…………」
顔をまた枕につっぷして、ぱたぱたと足をばたつかせるカルマ。
「まああなたの心配もよくわかるわ。未知の遺跡調査。何があるかわからないものね」
「そうそう、そうなんですよー!」
がばっ! とカルマが上体を起こして言う。
「ほんと何があるかわからない、危ない場所へ息子を行かせたくないのですよっ! なのに……どうしてりゅー君はわかってくれないのでしょうか……」
しょんぼり、とうつむくカルマ。
チェキータは苦笑すると、
「カルマ。あの子はね、あなたに喜んでもらいたかったのよ」
「……は? 意味わからないんですけど」
「だからね。リューは名指しで依頼が来るようになったことを、カルマ、あなたに喜んでもらいたかったのよ」
「? よくわからないのですが……?」
チェキータはカルマに手を伸ばし、頭をなでる。
「あまりお姉さんが一から十まで説明するのも、野暮ね。うん、いずれあなたにもわかるようになるわ」
「……撫でないでくださいようっとおしい」
ぺしっ、とカルマが監視者の手を払いのける。
苦笑するチェキータが続ける。
「とにかくあの子は、別にあなたに意地悪したくて遺跡へ行こうってわけじゃないのよ。そこだけは理解してあげなさい」
「……ふんだ。そんなの、言われなくてもわかってますよ」
息子が母の嫌がることをする子ではないと、カルマが一番わかっているのだ。
「というかカルマ。あなた天空城からの監視システムがあるのだから、あの子の安否については、家にいても確かめられるんじゃないの?」
それに、とチェキータ。
「どうせあなたのことだから、リューの監視を24時間体制でやって、身に危険が及んだら、テレポートで助けに行くつもりでしょう?」
カルマは絶句する。
「なんでそれわかるんですか……。エスパーですかあなた。怖っ」
「わかるわよ~」
とチェキータがケラケラ笑う。
「あなた単純だもの」
「なんですかそれバカって言いたいんですか?」
「まあ広い意味ではねー」
「よし表に出ろ面を貸せ」
あ゛? とにらみつけるカルマ。しかしチェキータは笑って流す。
「それだけ万全の監視体制を敷いてるのなら、別にリューを行かせてもいいんじゃない?」
「良くないですよ! あなたまでそんなこと言うんですかっ。りゅー君が一週間も、一週間以上もっ! 家に帰ってこないのですよッ!」
カルマがびょんっ、と立ち上がる。
「そんなの……私、さみしくて死んじゃいます……」
ぽつり……とカルマが弱々しくつぶやいた。
むろん息子の身を案じる気持ちはある。とても大きい割合である。その気持ちに嘘も偽りもない。
だがそれだけが真実ではない。
ぽつりと口からこぼれた言葉が、真実だった。
息子が自分の元に来て15年。
その間、片時もそばを離れなかった息子が、1週間以上も、自分のそばを離れるなんて。
そんなの……耐えられるはずもなかった。
「やっぱりね。そんなことだろうと思ってたわ」
よしよし、とチェキータが頭を撫でてくる。
「…………」
今度はやめろ、と言わなかった。
なんとなくしゃくだが、心が落ち着くから。
「それで、あなたはこれからどうするの? 嫌だ嫌だと、子供みたいにだだをこねるの?」
チェキータが言う。
それは本当に、親が子供に言うような口調だった。
それが、最高にむかついた。
「リューの方がよっぽど大人よ。カルマ、あなたはそうやってだだをこねるだけ?」
「…………そんなわけないでしょう」
うじうじ悩むのは、自分には性に合わない。
別にこの女に慰められて、やる気になったのではない。
「息子の身の安全。そしてりゅー君の意思を最大限尊重する。その二つの要素をかけあわせると、これしかありません」
ぱちんっ、とカルマは指を鳴らす。
万物創造スキルを使って、カルマは【とあるもの】を作り出した。
それはひとつの、メガネだった。
ただのメガネではない。
特殊な加工を施されているメガネだ。
カルマはそれをかけると、ベッドから立ち上がる。
「でかけます」
「あら、どこへ行くの?」
「冒険者ギルドです」
メガネをかけたカルマが、部屋を出て行こうとする。
「何しに行くの?」
くるり、とカルマが振り返る。
チェキータは、自分がしようとしていることをわかっているような。
そんな……全てを見抜いているような、余裕ある【母親の目】が、嫌いだ。
と思いながらいう。
「ちょっと冒険者になってきます」
お疲れ様です。
すみません、ちょっと展開を変えてみました。
こっちの方が趣旨にあってるかなと思ったので。あと面白そうかなと思いまして。
次回はカルマママが冒険者になったところから始まります。なぜ冒険者になったのか。そしてどうなるのか。
次回も頑張って書きます。
ではまた!