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25.息子、遠く離れた遺跡の調査に参加する【後編】

あともう1話、すぐにあげます。



 母の元へ帰ってきたリュージ。


 リビングにて、母カルマが、リュージ達を出迎えてくれた。


 リュージは今日受けた嬉しいニュースを母に話す。


「今日ね、ギルドから僕らに依頼があったんだ」


「…………」


「ここから馬車で2日くらい離れた場所、ザクディラって街のさらに先にある森のなかでね」


「…………」


「新しい遺跡が発見されて、その調査隊に僕らが選ばれたんだ……って、母さん?」


 さっきから母からのリアクションがないことに、リュージは不審に思う。


 母は玄関口で、微笑を浮かべたまま、微動だにしていなかった。


「母さん? 聞いてる?」


 もしもし? とリュージが母に尋ねる。


「…………」


 しかし母は動いてない。


 目を開けて……いや、目が開きっぱなしだった。


 しかも瞳孔が開いていた。


「か、母さんっ!?」


 また母が死んでしまったのか? と危惧するリュージ。


 否。


「これは夢これは夢息子が家出なんてするわけがないそうだこれは夢現実じゃない夢うつつこの世はどうせ胡蝶の夢にすぎないからよし世界を破壊しようそうしよう」


 瞳孔が開きっぱなしのまま、ぶつぶつと、早口にそうつぶやいていた。


 母がふらふらーっと家を出て行こうとする。


「待って母さん! どこいくの!?」


「あらりゅー君。お母さんちょっとこの惑星を破壊してきいます。すぐ帰ってくるので良い子にして待っててくださいね」


 うふふふ、と瞳孔の開いた顔でいうカルマ。


「母さん! それ僕ら死んでるから! もうっ! 母さんってば!!」


 母の肩を揺するリュージ。


 その後チェキータとシーラの3人で、ひっしになって説得。


 全員でリビングに移動。


 詳しい話をすることになった。


 テーブルを囲む4人。


 話題はさっき母に告げた、遺跡調査の件だ。


「この間ダンジョンボスを倒したでしょ。それでギルドに実力を認められたんだ」


「あらすごいじゃない」


 チェキータが足を組んで微笑む。


「だから遺跡調査に参加することになったの?」


「うん。ギルドから名指しで仕事が入ったんだ」


「あらまあやるじゃない、リュー。立派になったわね」


「へへっ」


 素直に褒められて嬉しくなるリュージ。


 ちら……と母の方を見やる。


 母にもすごいじゃない、と褒めて欲しい……と思ったのだが。


「これは夢だ現実ではない私は夢の中にいるそうだこれは夢だ夢なんだそうに決まっているだから夢の中の私が何をしても夢で済むだから」


 瞳孔に開いた目でまだブツブツ言っていた。


 てゆーか、さっきと同じ内容をつぶやいている。


 まったくリュージの話を、聞いてくれいなかった。


 ……悲しい。


 せっかく母に、嬉しい報告ができると思ったのだが。


 というか、チェキータのさっきのセリフは、母に言って欲しかった。


「ハァアアッ! 息子が悲しい顔をしてるぅー!!」


 ギュンッ! とカルマがリュージの表情の変化を、めざとく察知する。


 正気に戻ったようだ。


「どどど、どうしたのですかりゅー君っ? 誰かにいじめられたのですかっ?」


 真っ青な顔でカルマが言う。


「……別にいじめられてないよ。……ふんだ」


 母さんのバカ、といいかけて、やめた。

 

 母にバカなんて言ったら、それこそショック死してしまうだろう。


 母を傷つけるようなマネはしたくないのである。


「それでリュー。遺跡調査はどういう日程で行われるの?」


 チェキータが話をうながしてくる。


「えっと、馬車でここから2日かけて遺跡へ行って……そこで調査するから、帰ってくるのに1週間以上かかるかな」


「いっっっしゅぅうううううううううううううううううううかんっっっ!?!?」


 母の顔色が青を通り越して真っ白になっていた。


「い、一週間以上!? い、一生帰ってこないこともありえるってことですかぁーーーー!?」


 母が涙目になって、びょんっ! と飛びついてくる。


 テーブルを挟んで向こう側にいたのだが、それを飛び越え、リュージに正面から抱きついてくる。


 この母、やたらとデカイくせに、びっくりするくらい体重は軽いのだ。


「もご……すぐ帰ってくるよ」


「主にどういう仕事するの、リュー?」


「あ、えっと、遺跡内の地理の把握だけです。大人数で手分けして、地図を作っていく感じです」


 なので別に、そこまで危ないクエストではない。


 討伐クエストよりは楽だ。


 しかし破格の報酬額をギルドからもらえることを、保証されている。


 それに何より……名指しの依頼というのが、リュージにとっては誇らしかった。


 自分たちの力が、認められたような気がして。


 だからそんな仕事が来たことを、母に喜んでもらいたかったのだが……。


「だめだめだめですッ! そんなの危ないですよぉ!!!」


 母は抱きついたまま、ぶんぶんと首を振るってくる。


「遺跡の中で迷子になったらどうするんですかっ!?」


「いや、僕らはまだ弱いから、浅い階層しか担当さしてもらえないし。迷子になることはそんなにないと思うけど」


「そんなにってことはありえるってことじゃないですかっ!!!」


 あーーー!!! とカルマが嘆き悲しむ。

 ……それが、リュージは悲しかった。


 母を悲しませたことが……ではない。


 母に喜んでもらえなかったことが……悲しかった。


「ダメですりゅー君。一週間以上も家を空けるのも許せませんが、そんな危ない場所へ息子とその友達を行かせるわけにはいきませんっ!」


 さらっとシーラも数に入っていて、シーラが「カルマさん……心配してくれてありがとーなのです……」と涙目になっていた。

「ギルドへ行きましょう。そして断りを入れるのです」


「でも……名指しで依頼してきてくれたんだよ?」


「そんなのどうでもいいですよっ! そんなものより息子の安全、これが第一!」


 ……それを聞いて。


 リュージは、むっ、とした。


 そんなもの、と言われたことに、腹が立った。


 せっかく、名前で依頼が来るようにまでなったんだよ、と。


 成長した姿を、見せられたのに。


 喜ぶどころか、そんな仕事、と言われた。

 ……それが、リュージにとってはムカついたのだ。


「もっと安全なクエストを受けましょう。今までみたいに、近場のダンジョンで狩りを行えば良いではないですか。ね?」


 ……むくむく、と反抗心が芽生える。


 リュージは、抱きつく母を、ぐいっと押しのける。


「やだっ! 僕行く! ぜったいにこの調査に参加するからねっ!」

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