04.邪竜、オークの大群を瞬殺する
いつもお世話になってます!
冒険者になるべく、(母親同伴で)カミィーナの町へやってきたリュージ。
リュージはギルドで、登録を済ませた後、さっそくクエストに出発することにした。
と言っても、ギルドに加入したばかりの初心者。
できることと言えば、失せ物探しか、簡単な物を拾ってくるくらいしかできない。
というか、やらせてくれない。ギルドはその人の技量にあったクエストしか、紹介してくれないのだ。
ほかの初心者たちと同じく、リュージはまず、【薬草を拾ってくる】というクエストを受けることにした。
「まったくもう、なんですかあのギルドにいた人たちはっ。失礼な人ですねっ!」
カルマとリュージは、カミィーナの近くにある森へとやってきている。
隣を歩くカルマが、ぷんすかと怒っていた。
「いや……しょうがないよ。だって前代未聞だもん」
「そんなわけないでしょう。息子を心配するのは、この世にいる全ての母の義務みたいなものです。一緒についてきた、という例は絶対にあるはずです」
「いやこの国のどこ探してもいないと思うよ……。母親同伴で、冒険者ギルドに来た人って」
はぁ、とリュージはため息をつく。
数時間前。
ギルドに登録すべく、リュージはカルマをつれて、冒険者ギルドへやってきた。
受付嬢から冒険者についての簡単な説明を受けた後、いよいよ手続きをするというときに、事件は起きた。
【後ろの女性の方も、ギルド登録希望者ですか?】
受付嬢の質問に、母カルマは堂々と答えた。
【いいえ、違います。私はこの子の母親です】
「……あのときの周りの反応、トラウマ物なんだけど」
時間は戻って、現在。
リュージは森の中央あたりまでやってきていた。
しゃがみ込み、草むらで薬草がないかを探す。
カルマは暇そうにリュージの後ろに立って、ぷんすかしていた。
「ふむ……。よし、わかりました」
怒りから一転、合点がいったように、カルマがうなずいた。
「……いちおう聞くけど、何がわかったの?」
母はいつも、早合点しすぎる傾向にある。
先に釘を刺しておかないと、どんな暴走をしでかすかわかったもんじゃない。
「りゅー君を嘲笑しまくった、あの場にいた冒険者全員を滅します」
「滅するって……殺すってこと?」
まじめな顔でうなずくカルマ。
「ゲラゲラと下品に笑いやがってあの畜生どもが。りゅー君が止めなかったら、今頃そこは闇の炎に飲まれていたところですよ」
カルマが右手を差し出す。
そこに漆黒の炎が出現する。
あれは神殺しのスキル、【陽神の黒炎】だ。
必殺の万物破壊の雷とは違って、黒い炎でやかれた人間は……決して死なない。
ただ、死ねないだけで、やけどの苦しみはいつまでも続く。
「炎であぶられる苦しみにもだえながら、しかし死ねないという生き地獄を味合わせてやろうか……」
「ほんとやめてよね……もう……」
ぶちぶち……とリュージは薬草を引き抜きながら言う。
「どうしてだめなのですか? だってあの人たちはりゅー君をバカにしたのですよ」
「いや……だってまあ、しょうがないかなって」
仕方ないのだ。母親同伴で冒険者になるやつがいたら、だれだってバカにしてしまうだろう。
「ああ……恥ずかしかった……」
「恥ずかしい? 何がですか?」
「いやもう……なんかもう、はぁ……」
この母にリュージの感じている羞恥心を説明したところで、おそらく【え、なんで意味分からない】と真顔で返されるだろう。
カルマは残念なことに女性で、しかも人外。
そもそも性別と人種が違うのだから、思春期男子特有の心の動きなど、理解できるはずもなかった。
「はぁ……」
「りゅー君。大丈夫ですか? 疲れたのですか? 休憩取ります? それとも水分補給?」
薬草拾いをするリュージに、カルマがぱちんっ!
と指を鳴らして、豪華なソファとパラソル、そして水がたっぷり入った樽を出現させた。
母の万物創造スキルで、ゼロから瞬時に作った物である。
「だいじょぶ。もう少し頑張れば、言われた分量を拾い終えるから」
「ああ……労働にいそしむりゅー君、かっこいい……。尊い……。映像記録に残さなきゃ!」
カルマはスキルを使って、水晶玉を出現させる。
それは【記録の宝珠】と呼ばれる、映像を水晶の中に記録することのできる魔法アイテムだ。
……ちなみにこのアイテムのレア度はS級。つまり最上級レベルのレアアイテムである。
水晶に魔力を送り込むと、ぼうっと光り輝く。それを目の高さまで持って行く。
こうして水晶越しに見た映像が、玉の中に記録される……という仕組みだ。
「…………」
リュージは振り返り、はぁ、とため息をつく。
「ずるすぎるでしょ……」
背後のチートスペックお母さんを見ながら、リュージは独りごちる。
……そう。
母がいれば、このクエストなんて楽勝なはずだ。
なにせ、あらゆる物を作れるスキルを、カルマは持っているのだ。
だからカルマに、薬草を出して、と頼めば……町を出て森まで来る必要はない。
こうしてしゃがみ込んで、薬草かそうでないかに、悩む必要はない。
だがしかし……リュージは、母に薬草を出してと言わなかった。
「……母さんを頼るわけにはいかないんだ。僕は、一人前の、自立した男になるんだから」
母に薬草を出してもらうことはできる。
しかしそれは結局、洞窟で暮らしていたときと、何ら変わらない。
すべてを母から与えられて生きていた、あの頃の自分が嫌だから、冒険者になったのだ。
母を頼りたくなかったし、今後も自分1人の力で頑張るぞ……と決意を固めるリュージ。
今まで育てくれた母に。
立派に、1人で生きいけるようになった姿を……見せたいのだ。
……と男が決意をする傍らで、
「きゃー! りゅー君かっこいー! 薬草を拾うのが様になってますよ! こっち向いてくださいー! こっち向いて笑ってくださいー!」
……と母親は、ひとり勝手に盛り上がって、水晶で息子の姿を記録していた。
なんかもう……いろいろ台無しだ、とリュージはため息をついたのだった。
☆
薬草を拾い終えたリュージ。
拾ったはいいが、正直これが本当に薬草なのかどうか、自分にはさっぱりだった。
「そこはお母さんにおまかせあれ。はぁっ!」
カルマが気合いを入れると、
「お母さん……ビーム!」
彼女の目から、ぴこーっと光が出るではないか。
これは別にお母さんビーム……という名前のスキルでも魔法でも、ない。
これは神殺しのスキル、【鑑定(最上級)】だ。
見た物のあらゆる情報(価値、値段、そのほか諸々)を見抜く効果のあるスキルである。
……余談だが、別に目から光を出す必要はまるでなかった。
というかスキルを発動させても光はでない。
「母さん……! もうそれやめてっていったじゃん!」
「ふふ……思い出しますね。お母さんビーム、りゅー君だいすきでしたものね」
「ガキの時の話だろっ! もうっ!」
……そう。
3歳の頃、リュージが拾った石の鑑定を、このスキルで行ったことがある。
そのとき【なんか……鑑定スキルって……地味だね】と言ったものだから、カルマは光魔法を応用して、目から無害な光を出すわざを開発。
【かっこいいー!】
と幼いリュージが喜んだものだから、以来、母が鑑定スキルを使うときは、いつもビームを出すようになったわけである。
「もうそれやめてって! 恥ずかしいから技名も叫ばないで!」
「ふふふ、わかってますよりゅー君。嫌よ嫌よも好きのうちですよね?」
「何もわかってねえ!」
ややあって鑑定が終了。
母が薬草かどうかを仕分けする。
7割くらいが薬草で、残り3割がただの雑草だった。
「……ありがとう、母さん」
結局母の力を借りてしまったことを、リュージは悔しく思う。
しかし母がいなければ、規定量の薬草を採れず、クエストが達成できなかったのも事実だ。
「FU~♪ 息子にありがとうって言われましたっ! いーえぇえええええい!」
狂喜乱舞する母を尻目に、リュージは雑草を捨てて、新たに薬草を拾う。
それも母に鑑定してもらい(拒否したのだがカルマが無理に鑑定した)、これで規定量をクリアしたことになる。
「あとは町に戻って依頼達成ですね。ではテレポートで町へ帰りましょう」
カルマがスキル【最上級転移】を発動させた、そのときだった。
「きゃぁあああああああ!!」
……と、森の奥から、悲鳴が聞こえてきた。
「…………。さて、帰りましょうか」「いやいやいやいや!」
気にせず帰ろうとする母の服を、リュージが引っ張って止める。
「何帰ろうとしてるのさっ!」
「厄介ごとの気配を感じます。りゅー君に何かがあったらどうするのです。危険です。帰りましょう」
さあ早く、とテレポートしようとする母に「だめだよっ!」と怒鳴るリュージ。
「人の悲鳴だった! きっと何かあったんだ! 助けなきゃ!」
「…………」
はぁ、と母が重くため息をつく。
「我が子を乏しめる大罪をお許しくださいりゅー君」
カルマが前置きした後、リュージに、諭すように言う。
「りゅー君。これは意地悪じゃなくて純粋な助言です。ピンチに駆けつけたとして、駆け出し冒険者のあなたに、何ができるんですか?」
うぐ……とリュージは言葉に詰まる。
母は超絶過保護であるが……ドラゴン、魔獣。つまり獣だ。
獣の世界は弱肉強食。弱者は強者に食われるのが自然の摂理。
そして……。
「強者に食われたくないのなら、弱者ができる最善手は、危険から逃げる。これしかありません」
母の言葉は正しいし、(珍しく)的を射た意見だろう。
冒険者になったばかりの自分に、悲鳴があがるほどのピンチを、果たして救えるだろうか。
……無理だ、と自分の中の冷静な部分がささやく。
しかし……。
リュージは、カルマを見やる。
自分の身を、本気で案じてくれている母を見て……リュージは思う。
逃げちゃ、だめなんだと。たとえ無謀だとしても、ここで逃げたら、男じゃない。
逃げたらだめだ。もう自分は成人したんだ。自立した一人前の男になるんだ、なりたいんだ!
だからリュージは、逃げたくなかった。逃げることを、リュージは悪いことと、男らしくないことだと、思っているから。
それではだめなんだ。いつまでも母に守られてる、弱い自分ではいけないんだ!
リュージはダッ……! と駆け出す。
「てい」
「きゃうん」
駆け出すリュージに、カルマは一瞬で回り込んで、首の後ろを手刀でトンっとたたいた。
神殺しのスキル、【気絶(最上級)】。触れた相手を無条件に気絶させるスキルだ。
「……ごめんなさいりゅー君。危ないことには、極力あなたを巻き込ませたくないのです」
そう言って、カルマは「変身」とつぶやき、人間の身体から、邪竜へと姿を変える。
その背中に息子を乗せて、【さて……】
とつぶやく。
無属性魔法【探知】を発動させる。
周辺情報を把握するスキルを使って、悲鳴の出所を探す。
【……獣人がひとり。オークが、大量……ですか】
オークとはDランク冒険者でも手こずる強さをもつ、二足歩行で立つ豚型モンスターだ。
【……捨て置くのはたやすいです。しかしここで見捨てたら、りゅー君の胸に深い後悔が刻まれるでしょう】
悲しい思いを、息子にはさせたくなかった。
邪竜となったカルマは、その大きな翼を広げると、大空へと飛び上がる。
一瞬で上空へ飛びだつと、
【いました】
すばやく目標を発見。
そのままぐんっ……! と急降下し、
どごぉおおおおおおおん!!!!
と、激しい音を立てて、着地する。
爆音と激しい風が吹きすさぶ。
「ぷぎぃいいいいいいい!!!!」
とオークの集団が、木の葉のように吹き飛んでいく。
30匹近くいたオークの集団は、カルマが降り立った衝撃で、半分以下の10匹まで、数を減らした。
「な、なに……?」
オークのそばで腰を抜かしてる存在を、カルマが目でとらえる。
獣人の……メスのようだ。
【あなたは下がってなさい】
「は、はひ……」
ぶるぶると震える獣人少女は、カルマの言うことを素直に聞く。
獣人はばびゅんっ、とその場から退散した。
その子が逃げたのを確認した後、
【さて……】
邪竜の姿のカルマが、オークたちを見やる。
【私は今、とても機嫌が悪い】
ごぉ……! とカルマの身体から、漆黒のオーラが噴出する。
オークたちがぶるぶるぶる! と震え出す。
【何に怒ってるかわかるか? ……仕方のないこととはいえ、息子に手を上げてしまったことに、腹を立てているんだ】
低く、うなるような、カルマの声。
地の底から這い出た邪神のごとく、すごみのある声に、オークたちはびびり腰を抜かし、失禁し出す。
【私にそのようなマネをさせた貴様らを……私は絶対に、許さない】
……セリフを言い終わる前に、
バタバタバタバタッッ!!
とその場にいたオークは、怒り心頭の邪竜の覇気にあてられて、全員死んでいた。
【…………】
カルマはオーラを納める。
そして姿を邪竜から人間に戻す。
「よっと」
上から落ちてきたリュージを、お姫様だっこする。
「ああ、りゅー君をおひめさまだっこできるこれは栄誉……! これは栄誉なことですよっ! 大事なことなので2回言いました!」
感涙にむせかえるカルマ。
「さて帰りますか。……おや?」
テレポートで帰ろうとしたそのときだ。
視界に、先ほどの獣人少女の姿をとらえたのだ。
彼女は失神していた。
カルマのスキルには、指向性、つまりどの相手に使うかを自分で調整することができる。
あのオークどもが死ぬようにオーラを使ったのであり、獣人少女には使用してない。
つまり獣人少女は死んでなく、単に気を失っているのだ。
ではなぜ気を失っているかというと、邪竜となったカルマの、憤怒する姿に……びびって意識を失ってしまったのである。
「…………」
カルマは見なかったことにして、その場を後にしようとした。
そこでふと思う。
……あとで、リュージにことの顛末を聞かれたとき、あの悲鳴を上げていた人はどうなったのか。
そう聞いてくるはず。
「……ちっ。手間かけますね」
まさか【ごっめーん、森において来ちゃった☆】とは言えない。
息子が悲しむのは目に見える。
カルマはパチンっ、と指を鳴らす。
すると手押し車が出現する。
それに獣人少女を片手でつまんで、ひょいっと乗せる。
カルマはテレポートを発動させる。
背中にリュージをおんぶし、片手で手押し車を押しながら、町へと帰還したのだった。
お疲れ様です!
次回、助けた獣人ちゃんを、お母さん面接する感じになると思います。
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ではまた!