25.息子、遠く離れた遺跡の調査に参加する【前編】
お疲れ様です。
すみません、ちょっと25話、書き直しました。
前回のルシファーちゃんの件が無かったことにして、息子迷宮を作った直後の話として、読んでください。
聖地を作った数分後。
「ふふんふーん、今日のご飯はカレーライス~♪」
カルマはキッチンにて、料理を行っていた。
と言っても、食材を刻んだりする、一般的な料理ではない。
「よっと」
ぱちんっ。
カルマが指を鳴らすと、そこに鍋が出現する。
鍋の中には、なみなみに注がれたカレールー入っている。
「ほっと、よっと、ほいっと」
ぱちんぱちんと指を鳴らすたび、テーブルの上には、豪華な食事が並んでいく。
これはカルマの持つスキルの効果だ。
カルマは邪神を倒したことで、いくつもの特別なスキルを得た。
これはその一つ、【万物創造】スキルだ。
あらゆるものをゼロから作れるという、超強力なスキル。
悪用すれば巨万の富を築くことが可能なスキルだが、カルマはそんなことをしない。
「はーやく息子が帰ってこないかなーっと」
腹を空かせた息子に、料理を作ってあげる。ほぼそのためだけに、使われるスキルだった。
食事の準備を整えて、よしとうなずいたそのときだ。
がちゃっ。
「お帰りなさいりゅー君!」「ハァイ、カルマ」「………………」
ドアから入ってきたのは、美貌のエルフだ。
長身に巨乳、やや垂れ目がちな瞳が特徴的のエルフ。
「なんだチェキータですか。帰って良いですよ」
「ひどいわー。お姉さん悲しい」
「けっ。ババアのくせに。お姉さんとか若者ぶってるんじゃあないですよ」
このエルフは監視者といって、国王から邪竜カルマアビスを監視せよ、という任務を受けた人物である。
カルマが邪神を食らってから今日まで、100年以上、このエルフはカルマを監視し続けている。
なのでまあ、歳はそこそこいっているのだ。
もっともエルフは長命であるため、百年経っても、見た目の麗しさは保たれたままだ。
「まあまあ。あら、いいにおい。今日はカレーかしら? お姉さんも一緒に夕飯いただいてもいい?」
「まあ……別にいいですよ。いっぱい作ってありますし」
それにここで嫌だといっても、結局ここにいすわり、そこに息子達が帰ってくるだろう。
そうするとこの女を追い出すのは難しくなる。超ウルトラ優しい息子は、チェキータに一緒にご飯どう? と誘うだろうし。
「ありがと。それにしてもカルマ」
チェキータはテーブルの前に座り、カルマを見ていう。
「あなた、リューたちの冒険についてかなくなったのね」
リューとは息子リュージのことだ。
以前は、リュージがどこへ行こうとしても、くっついていこうとした。
だが今日は息子達を送り出し、自分は家にいた。
……まあ、聖地を作りに行ったりしたし、そもそも天空城から監視はしていたのだが。
「ふっ」
カルマが余裕ある笑みを浮かべる。
「チェキータ、いつの話をしているのですか」
カルマが監視者の前へ行く。
「私はレベルアップしたのですよ。見てくださいこれを」
そう言って、カルマは胸元のネックレスを見せる。
銀の簡素なチェーンに、金剛石でできたブローチがついている。
「あらきれい」
「でっっしょ~~~~~~~~~!!」
パアァアアッ! とカルマが明るい顔になる。
「えへへっ、息子からもらったんだー。プレゼントだって~。えへへっ」
子供のように微笑むカルマに、監視者エルフが静かに微笑んでいる。
ハッ……! と正気に戻り、んんっ、と咳払いする。
「とにかく。私は息子からプレゼントをもらって、今度こそ悟ったのですよ」
「何を?」
「母とは何かを……です」
ふっ……と遠い目をして、カルマがドアの向こうを見る。
「母とは……こうして家にいて、息子が帰ってくるのを、毎日待つ。腹を空かせた息子達に、ご飯を用意して待ってあげる。それだけで良かったんだなって」
エルフがきょとんとしているが、無視して続ける。
「余計な干渉は必要ないのです。息子には息子の人生がある。母はその人生の最初は支えるけど、成長したら見守るだけでいい……と」
カルマは自分の考えに酔っていた。
これぞ母という概念に、到達できたのだから。
「ふーん、そう」
しかしその一方で、監視者の反応は実に淡泊だった。
それが気に入らない。なぜこの私が到達した、素晴らしい境地に、賞賛の言葉を贈らないのかと。
「なんですか?」
「いやうん。この後の展開が容易に想像できてねぇ」
「展開?」
「いや、なんでもないわ。けどそうね。あなたのいっていることは正しいわ。一歩お母さんに近づいたわね」
パァアア……! とカルマが晴れやかな表情になる。
「べ、別にあなたにそう言われても、全然嬉しくありませんねっ!」
「めっちゃ笑顔じゃないこの子。うける~」
と、そのときだった。
「かーさんっ! ただいまー!」
「カルマさん、おなかへったのですー!」
息子達が冒険から帰ってきたのである。
カルマは母的スマイル(さっきチェキータが浮かべたような、微笑)を浮かべて、息子達を出迎える。
「ねえねえ母さん! 聞いて!」
「はいはいなんですか?」
笑顔のリュージに、カルマが尋ねる。
「僕たちね、ここを離れて、遠くに行くことになったんだ!」
……。
…………。
「…………ふぁっ!?」