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冒険に、ついてこないでお母さん! 〜 超過保護な最強ドラゴンに育てられた息子、母親同伴で冒険者になる  作者: 茨木野
11章「最終決戦編」

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182.邪竜、息子の帰りを信じて待つ【後編】



「りゅーくん……?」


 自宅の壁を破壊し、やってきたのは、息子だった。


 カルマは呆然とした表情で、リュージを見やる。


「りゅーくん……」


「母さんっ」


 たっ……! とリュージが駆けつけてくる。


「りゅーくん……りゅーくぅううううううううううううううううううん!」


 カルマは、ようやく状況を把握した。


 帰ってきたのだ。

 息子が。

 

 約束を守って、生きて、帰ってきたのだ。

 カルマはいち早く息子の元へと駆けつけ、彼を正面から抱きしめる。


「本物っ? ねえ、あなたは本物のりゅーくんなのっ?」


 カルマはその豊かな胸に、愛しい我が子を抱く。


 彼のぬくもりは本物だった。


「うん、そうだよ母さん。僕はリュージ。母さんの……カルマアビスのひとり息子だよ」


 リュージは見上げると、快活に笑う。


「りゅーくん……りゅぅううううううくぅうううううううううううううん!」


 カルマは大声で泣き叫ぶ。


 ぎゅーっと、息子を力一杯抱きしめた。


「帰ってくるの遅いよぉおおおおおおおおおおおおおおおお! 半年も音沙汰もなくてぇええええええええええ! 私……私ぃいいいいいいいいいいいい!」


「ありがとう、母さん。待っててくれたんだね」


 リュージは台所の食器を見てうれしそうに言う。


 そこには息子の使っていたものが全てそろっていた。


 死んでしまったら片付けてしまうだろう。

 そうしなかったのは、息子を信じて待っていたから。


「ええ! だって……帰ってくるって……約束したもの! 私は知っている。あなたは、約束を守る……まも……まも……ぶぇえええええええええん! りゅーーーーくーーーーーーーーーーーーん!」


 半年間、決して流すまいと堪えていた涙が、堰を切ったように頬をこぼれていく。


 まるで昔のように、わんわんと、子供のように泣き叫んだ。


「りゅーくん帰ってくるって信じてたからぁ! 絶対に泣かないってきめてたのにぃいいいいいいいいいい!」


「ごめんね、母さん。帰りが遅くなって、本当にごめんね」


 リュージはカルマの頭を優しくなでる。


 それは、在りし日の邪竜と息子の姿だった。


 カルマが泣き止むまで、リュージはそうやって、母のことを慰めた。


 ややあって。


「りゅーくん……もう、どうしてこんなに帰りが遅かったの?」


 カルマはリュージを胸に抱きながら尋ねる。


「実は、僕一回死んでいるんだ」


「死んでる……ですって?」


 リュージはうなずく。


「ベリアルとの最後の勝負、僕は全身全霊をかけて一撃を放った。勇者の力を全ぶつかって敵を倒して、汚れたこの星を浄化したら……力を使い果たしちゃったんだ」


 それで死んでしまったという。


「でも……あなたはこうして、生きてるじゃない?」


「うん。僕が死ぬ間際にね、これを使ったんだ」


 リュージはそう言って、ポケットから指輪を取り出す。


「この指輪は、【願いの指輪】。どんな願いもひとつかなえてくれる。夢の中で、ユートさんから勇者の力を受け継ぐとき、一緒にもらっていたものなんだ」


 しかしその指輪は、目覚めると無くなっていたのだという。


「けど違ったんだ。指輪は僕の魂と同化していたんだ。肉体が消滅して、初めて僕は願いの指輪を手にすることができた。そこで、祈ったんだ」


 リュージはカルマを見て、笑う。


「もう一度、母さんに会うって」


「りゅーくん……」


「そしたら【転生】の魔法が発動してさ、こうしてまた肉体を得たんだ。けど転生魔法って、使うと赤ん坊としてスタートみたいでさ。しかも転生した先がここから海を渡った遙か先にある大陸でね。帰ってくるのに半年もかかっちゃった」


 カルマは、もう色々と突っ込みたいことだらけだった。


「その理屈で言うと、あなたはまだ生まれて0歳6ヶ月のはずでしょう? 見た目は15歳のままよ?」


「まあ、頑張ったんだ」


「海を渡った遙か先からここまで、いったいどうやって帰ってきたの?」


「まあ、色々頑張ったんだよ」


 ……その雑な言い方は、かつての自分のようであった。


 けどカルマはわかっている。


 息子は、母を心配させまいと、あえて詳細を語らないのだと。


「母さん、僕ね、頑張ったんだ。母さんとの約束を守るために。だから……だからね」


 リュージはカルマを見上げて、明るい笑顔を浮かべる。


 カルマは全てを察した。

 息子が欲しい言葉を、瞬時に理解したのである。


 母は、リュージを固く抱きしめる。

 そして、彼の額にキスをする。


 抱擁を解いて、カルマは、最高の笑顔で、息子に言う。


「お帰りなさい、りゅーくん」


 リュージは実に嬉しそうに笑う。


「母さん、ただ」「リュー!」


 バンッ……! とドアが乱暴に開く。


「チェキータさ……うぷっ」


 エルフは大粒の涙を流しながら、リュージを抱きしめる。


「リュー! りゅー! あなたなのね!? 生きてるのよね!?」


「う、うん……そうだよ、ちぇき……お母さん」


 リュージは気恥ずかしくて、目をそらしてしまう。


 だがチェキータはぎゅーっと、その豊満な胸にリュージを抱き留める。


「もう! もう! 遅すぎるのよ! 連絡も寄越さないで! 半年も母親に黙っていなくなるなんて! 悪い子!」


「ご、ごめんなさい……」


 チェキータはリュージをより力強く抱きしめる。


「次からは出かけるときは、ちゃんといつまでに帰るっていうのよ! わかった!?」


「はい……わかりました、お母さん」


 チェキータは泣き笑いながら、リュージの額にキスをする。


「りゅーじくん!」「……リュージ!」「ぱぱー!」


 外出していたシーラにルトラ、そしてルコにバブコが、いっせいにリュージの元へ駆けつて来る。


 彼は一瞬で、複数の美少女たちに囲まれた。


「おかえりなのです!」「……おかえり、リュージ」「ぱぱ。おかえり」「リュージよ、お帰りなのじゃ」


 リュージは仲間たちを見回す。


 誰もが皆、リュージの帰りを笑って迎え入れてくれた。


 みんなの顔を見渡し、そして……言う。


「ただいまっ!」

次回、最終回です。

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