24.邪竜、地下ダンジョンを丸ごと1つ作る
お世話になってます!
リュージが初めて、ダンジョンボスを討伐した翌日の出来事だ。
その日の朝、リュージ達は冒険者としてのクエストに出発。
母はついて行きたい気持ちを……ぐぐっとこらえて、ついていかなかった。
リビングにて、カルマはにやり、と不敵に笑う。
「息子の冒険について行かないなんて……私も成長したものですよ」
と言いつつ、カルマの手には【鏡】が握られていた。
そこには天空城から送られてくる、監視映像が映っている。
ばっちりと息子の姿を監視しているし、なんなら息子の身に危険が及んだら、テレポートで駆けつけるつもりだ。
監視者のエルフがいたら、どこが成長したんだよ……とツッコんでいたことだろう。
「りゅー君達は森で薬草採取ですか。とりあえず周辺のゴミ掃除はしておいたので、まあ安全にクエストを終えるでしょう」
カルマはパチンっ、と指を鳴らす。
すると目の前にテーブルとポット、ティーカップが出現する。
邪竜カルマアビスの持つスキルの一つ、【万物創造】の効果だ。
あらゆる物体を作り出す能力を使い、カルマは優雅にティータイムとしゃれこんだ。
【鏡】の中では、リュージが相棒の獣人、シーラとともに、薬草を採取している。
『最近涼しくなったねぇ』
『はいなのです! 秋が近づいてるのですー!』
『シーラは秋好きなの?』
『だいすきなのですっ! ご飯がおいしーきせつなのですー!』
「息子が働く姿を見ながらお茶を飲む……最高に贅沢なひとときです。ふふふ」
ややあってお茶を飲み終える。
「さてりゅー君は無事仕事を完遂するでしょうから、ちょっと今度は別の場所を見るとしますか」
カルマは鏡の表面に触れて、横にスライドさせる。
すると今度は、別の場所の映像が映し出された。
そこはダンジョンの中だ。
しかしただのダンジョンではない。
ここは、特別な場所なのだ。
「息子が初めてボスを倒した特別なダンジョン、特別なボス部屋です」
うっとりとした目で、カルマが鏡の映像を見やる。
「ここで息子が激闘を繰り広げ、ついに倒し、そして母にプレゼントを贈ってくれた……」
カルマは胸元のネックレスをいじる。
息子からのプレゼントを前に、でへへ、と緩みきった顔になる。
と、そのときだ。
「ああそうだっ!」
良いこと思いついた! とばかりに、輝く顔を浮かべるカルマ。
「ここは聖地! そうだこのダンジョンを、聖地に指定しましょう! そうしましょうっ!」
と、またアホなことを言い出すカルマ。しかしツッコミを入れるものはこの場にいない。
「前から思っていたのですよ~。ここは記念となる場所ですからね。きちんと保存しておかないとって」
カルマは立ち上がる。
そしてスキル、【最上級転移】を発動。
あらゆる場所へも、一瞬でテレポートできるスキルを使って、カルマはダンジョンへ飛ぶ。
やってきたのはダンジョンの入り口。
「さーて、ではさっそく」
カルマは胸の前で手を合わせる。
「このダンジョンは、【お母さん聖地】に指定されました。おめでとう。しかし聖地なので、人が立ち入ってはいけません。かといってダンジョンを私物化するわけにはいかない……そこでっ!」
カルマの手に魔力が集中する。
膨大な量の魔力が、ぎゅうんぎゅうんっと集約していく。
惑星一つを滅ぼすほどの魔力が、カルマの手に集まっていく。
カルマはかつて、世界を破滅に導こうとした邪神を食らった。
そのため、その体内には、無尽蔵に近い魔力が蓄えれているのである。
「はぁあああ!」
魔力が爆発する。
すると……。
ドォオオオオオオオオオ…………ンッ!
軽い地震。
そして次の瞬間には……ダンジョンが、できていた。
……もう少し詳しく述べると。
まず先ほど立っていた、ダンジョンの入り口。
そこからほど遠くない場所に、もうひとつ、全く同じ形のダンジョンの入り口ができたのだ。
「うんうん、完璧」
カルマは天空城からの監視映像を使って、新しく想像したダンジョンの全体像を見る。
そこに写っていたのは、リュージがボスを倒したダンジョンと、全く同じ見た目、同じ構造をしたダンジョンだ。
出現するモンスターや宝箱、トラップの位置さえも同じである。
「あとは旧ダンジョン内部にいる人間を、すべて新ダンジョンへ移してっと」
カルマはスキル、【強制転移(最上級)】を発動させる。
範囲内にあるあらゆるものを、好きに移動させることのできるスキルだ。
カルマは旧ダンジョン内にいる人間を、すべて、新ダンジョンへと移した。
転移に使う時間は、1秒にも満たない、一瞬の出来事だ。
ダンジョンの中にいた人間は、たぶん、自分が別の場所へ移動させられた自覚はないだろう。
なにせ移動は一瞬だったし、移動した先も、まったく周りの景色は同じだからだ。
「よしよし、古い方のダンジョン……言い方が嫌ですね。息子ダンジョン……息子迷宮……そうっ! 息子迷宮!」
それだ、とカルマが手をたたいてうなづく。
「息子迷宮の方には誰もいなくなりました。しかしここで人が入ってこられては意味がない。とゆーわけで」
カルマは左手を差し出す。
その手に……赤黒い雷が発現する。
そしてカルマが雷をまとう手で、息子迷宮の入り口に触れる。
すると……。
バギィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイインッッ!!!
と、息子迷宮の入り口が、木っ端みじんに、跡形もなく、消し飛んだ。
後には何も残っていない。
「ダンジョンの入り口は消えました。これでもう人が入ってこれませんよっ!」
あとは地面の穴を、土魔法で固めればオーケー。
これで地下のダンジョンはそのままに、人が入ってこれない聖地の完成である。
「あ、そうだ。せっかくだから」
カルマは【最上級転移】を使う。
テレポートで息子迷宮の内部に侵入する。
やってきたのはボス部屋だ。
「【息子が初めてボスを倒した場所】……っと」
カルマは万物創造の魔法を使って、看板を創り、ボス部屋の前に突き刺す。
「うん、完璧完璧」
満足そうにうなずくカルマ。
「ああ……素晴らしい。これは素晴らしいですよ……」
カルマはうっとりとした顔でつぶやく。
「こうしてどんどんと聖地を増やしていきましょう。うんうん。はぁっ! しまったぁ!」
カルマがクワッと目を見開く。
「作業に夢中のあまり、りゅー君の様子を見るの、忘れてた-!」
すぐに【鏡】を作って、リュージ達の様子を見やる。
『疲れたねー。お腹もすいた』
『はいっ! しーらもおなかぺこぺこなのですっ!』
どうやら息子達は、クエストを終えて帰る途中らしかった。
「良かった無事に終わったみたいです。ふう……」
ほっ、と心から安堵の表情を浮かべる。
「さて、では息子達が帰ってくる前に、急いで帰って、料理を作らねばっ!」
カルマはテレポートを発動させ、息子迷宮から脱出したのだった。
お疲れ様です!
今回から三章スタートです。
やることは基本的に変わらず、そこに新キャラを追加する予定です。
次回も頑張って書きますので、よろしければ下の評価ボタンを押していただけると嬉しいです。
ではまた!