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冒険に、ついてこないでお母さん! 〜 超過保護な最強ドラゴンに育てられた息子、母親同伴で冒険者になる  作者: 茨木野
11章「最終決戦編」

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181.息子、旅立つ【中編】



 半壊した、天空魔王城にて。


「僕がいって、全部を終わらせてくる」


 リュージがみんなを見渡しながら言う。


 その顔つきに迷いも怯えもない。


 ただまっすぐに、自分の意思を、みんなに伝える。


「リュー……あなた、何を言ってるのか……わかっているの……?」


 逆に、チェキータは動揺していた。


 震える声で、リュージに尋ねる。


「邪神と同等の力を勇者は持っている。つまり僕なら、宇宙へ行って月を止めることができる」


 今のリュージは、勇者ユートから力を完全に受け継いでいる。


 今ならば、止めることができる。


「駄目よ……駄目よ!」


 チェキータはリュージの肩を掴んで、必死に止めようとする。


「あなた一人で行って、どうやって月を止めるの!? それにまだ邪神の魂がそこにはいる! 危険だわ!」


 エルフの言うとおり、宇宙へ行くことができたとして、そこで終わりではないのだ。


 それでも……彼の決意は揺るがない。


「僕、いくよ。僕にしかできないことなんだ。いかせて、チェキータさん」


 チェキータはひるむ。

 リュージの迷いのない瞳から、少年の……否、男の決意を感じ取ったのだ。


「いや……いやよ!」


 チェキータは激しく首を振る。


「誰も助けにいけないのよ!? もしあなたに万一があったら、いったい……いったい誰があなたを守るというの!?」


 彼女の瞳から涙が流れていた。


 ぎゅっ、と正面からチェキータがリュージを抱きしめる。


「お願いリュー! そんな危ないところへひとりでいかないで!」


「チェキータさん……。ごめん、僕……」


 リュージの変わらぬ決意に、負けないくらい、チェキータは強く彼を抱きしめた。


 決して、いかせてなるものか。


 その強い抱擁を通して、チェキータのリュージへの思いの強さが伝わってくる。


「いや! いかないで! あなたまで失ってしまったら……わたし……わたし……」


 そのときだった。


「チェキータ。いかせて、あげましょう」


 振り返ると、そこには……カルマがいた。


「カルマ……あなた、自分が何を言ってるのか……わかっているの……?」


 呆然と、チェキータはつぶやく。

 一方でカルマは、静かにうなずく。


「見届けましょう、【私たち】の息子が、立派にその勤めを果たすその様を」


 私たち、つまり、カルマとチェキータ。


 そう、リュージにとって、彼女たちはまさしく自分の母親だった。


 いつもあふれんばかりの愛情を注いでくれた、カルマ。


 いつも影ながら励まし、支えてくれた、チェキータ。


 リュージにとって、どちらも大切な、彼の母親である。


「カルマ……」


 母は静かに、リュージに近づいてくる。


 チェキータの手をとり、リュージから離す。


「……わかっているの、カルマ? 自分の息子が、とても危ない場所へひとりでいくのよ?」


 カルマはゆっくりうなずく。

 その瞳は、息子と同じ目をしていた。


 揺るぎない決意をたたえた、覚悟の決まった目だ。


「……どうして、止めないの? だってあなた……息子が都会へいくってだけで、この世界を破壊しようとしたくらい、過保護だったじゃない」


「そんなこともありましたね。恥ずかしいです」

 

 カルマが苦笑する。

 チェキータは、愕然とした。


 カルマが、まったく動揺していなかった。

 自分はこんなにも、息子(リュ-ジ)を失うかもと言う状況に、心乱されているというのに。


「ねえ、りゅーくん」


 カルマは息子を見て、微笑む。


「必ず……帰ってくるのよね?」


 そこに何の含みもなかった。

 出かける前にハンカチを持っているかと尋ねるくらい、普通に、聞いてきた。


「うん。大丈夫。絶対に帰ってくるよ」


 リュージの黒い瞳は、未来を見据えていた。


 これから死地へ赴くもの特有の、諦念や、おびえというものは一切無かった。


 彼の目には未来が見えている。


 家に帰って、また母たちと笑い合っている。


 そんな、明るい世界を幻視していた。


「ほらみてチェキータ。りゅーくんは大丈夫でしょう?」


「カルマ……」


 気づけばいつもと、立場が逆転していた。

 息子を危ないといって手元に置いておこうとするのは、常にカルマだった。


 チェキータはその手を掴んで、優しく諭し、息子を自由にさせる。


 今まではそうだった。


 けれど今この場において、その関係が逆転していた。

 

「いかせて、お母さん」


 リュージは一歩前に出る。


 カルマ……ではなく、チェキータの前に。


「僕、必ず役目を終えて、みんなの元へ帰ってくるよ。だから待ってて。僕が冒険しごとを終えて、家に帰ってくるのを」


「リュー……。せめて、せめて、わたしも……」


 チェキータの言葉に、リュージは首を振る。


「これは、僕が始めた冒険ものがたりなんだ。僕の手で終わらせたいんだ。だから……」


 リュージはまっすぐ、チェキータを見て、こう答える。


「冒険に、ついてこないで……お母さん」

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― 新着の感想 ―
[一言] おおぅ。これは感動した。 ずっと読んできたからこその感動。これは良いです。
[良い点] 意外な形でまさかのタイトル回収!? これは一本取られました
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