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冒険に、ついてこないでお母さん! 〜 超過保護な最強ドラゴンに育てられた息子、母親同伴で冒険者になる  作者: 茨木野
11章「最終決戦編」

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181.息子、旅立つ【前編】




 邪神王ベリアルを、リュージは打ち破った。


 話はその直後。


 リュージたちは、破壊された魔王城へと降り立つ。


「リュー!」


 いち早く駆けつけてきたのは、美貌のエルフ・チェキータだ。


「チェキータさん……」


 目に涙をためながら、チェキータはリュージを抱擁する。


「倒したのね、リュー……」


「はい、ちゃんと……勝ちました……」


 チェキータは目を閉じて、ぎゅっとリュージを抱きしめる。


「信じてたわ、リュー。必ず勝つって。だってあなたは、強い子だもの」


 おそらくチェキータの言っている勝つとは、ベリアルを指しているだけではないのだろう。


 己自信の弱さにも、打ち勝ったこと。

 そのことを、彼女は褒めているのだ。


「りゅーじくん!」

「シーラ……」


 ウサギ少女が笑いながら、リュージの元へやってくる。


 その後ろにはルトラ、そしてバブコにルコ。


 全員がそろったことになる。


「すごいのです! 邪神王を倒すなんてっ!」


「ありがとう。けど、ボクだけの力じゃないよ」


 リュージは周りみんなの顔を見て、頭を下げる。


「ありがとう、みんな」


 仲間が居たからこそ、リュージは己に打ち勝つことができた。


 そして、敵を下せたのは、守るべきみんながいたからだ。


「これで全て終わったのです! おうちに帰るのです!」


「……いいえ、まだ終わっていません」


 ひとり、カルマが静かに、頭上を見上げる。


「どうしたの、カルマ?」


「やつは……ベリアルはまだ生きています」


「そ、そんな! ど、どこに……?」


 カルマはスッ……と頭上を指さす。


「う、うえになにかある……って、ええ!? お、お月様が、あんなに大きくなってるのです!?」


 リュージは慌てて天を仰ぐ。


 遙か上空に浮かんでいるはずの月が、普段よりも大きく見えた。


 時間が経つほどに大きくなっている。


「……そんな。月が、近づいてきているわ」


 チェキータが呆然とつぶやく。


「ええー!? な、なにがどうなってるのですー!?」


「私がベリアルを倒した瞬間、やつの肉体が滅ぶと同時に、精神が抜けていくのが見えました。そしてその精神は空へと上っていたのを確認しました」


 カルマが近づいてくる月を見やる。


「……お母さんだ。なにか、仕掛けを施していたんだ」


 ルトラがぐっ……と下唇をかみながら言う。


「……あの人は、非常に疑りぶかい性格をしている。ベリアルがやられる可能性をかんがえて、仕込んでいたんだ」


「なるほど……ベリアル消滅を関知した瞬間発動する魔法の術式を、あらかじめ組んでいたのね」


 バブコが怯えた表情で、カルマの体に抱きつく。


「これから。どうなるの?」


 カルマはルコを抱き上げて、彼女の頭を優しくなでる。


「おそらく月は地上へと落下し、この星を破壊するでしょう。そのときの恐怖の感情を糧に、ベリアルは再度復活するわ」


「そ、そんな! ど、どうして……?」


 チェキータは眉間に深いしわを刻みながら言う。


「ベリアルは邪神。人の負の感情……恐怖や絶望をエネルギーとする。地上が破壊された際のそれは、ベリアルを再びこの世に蘇らせるほどのマイナスのエネルギーを秘めているわ」


「……そこまでお母さんは、計算していたのね」


 全員が沈鬱な表情で、うつむく。


「み、みんなで攻撃すればなんとかなるのです!」


 シーラが無理矢理、雰囲気を明るくしようと言う。


「……無理よ。成層圏に突入した月を仮に破壊できたとして、その破片はこの星を死の星へと変えるわ。やるなら成層圏外にいる、今このタイミングしかない。けど……」


 そう、結局のところ、月が地上に落下する前、宇宙空間にいるときにどうにかする必要がある。


 だが、生身で宇宙へと行けるものは……いない。


「邪神の力を持つかつてのカルマなら、可能だったかもしれない。けど今その力は失われている。邪神消滅と同時に、魔王四天王も弱体化しているわ。……つまり」


 つまり、この場にいる誰もが、落下する月を止めることはできない。


「大丈夫」


 ……ただひとり、勇者の少年を除いて。


「僕がいく。僕が、みんなを守るよ」

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