180.息子、肩を並べて邪神と戦う【中編】
「やったかの!?」
「ダメだ、浅い」
ベリアルの裂けた皮膚が、瞬時に回復する。
「失望したぞリュージ。勇者ユートは、この程度ではなかった」
ベリアルが視界から消える。
早すぎて目で追えない。
未来視でかろうじて、敵の攻撃してくる場所が見えた。
必死になってリュージは回避するが、ベリアルの拳が早すぎて避けきれない。
「ガッ……!」
リュージは腹にベリアルのこぶしをウケ、吹き飛ぶ。
「りゅーくん!」
カルマは嵐を呼び出し、息子を柔らかく受け止める。
「ありがとう、母さん」
「敵は強いわ、油断せずにいきましょう」
ベリアルは高いところから、リュージ達を見下ろす。
「ヤツの攻撃が早い」
「なら、私に乗ってりゅーくん」
カルマは人間の姿から、ドラゴンの体へと変化する。
「ほぅ。マキナアビスの力を感じる」
【母から受け継いだ力よ!】
以前の邪悪なる色をしたカルマと違い、今の母は黄金の竜となっていた。
それはリュージの聖剣と同じ、闇を払う日光と同じ色。
【私はマキナの嵐と雷を受け継いだ。これならやつの速度についていける】
「そうか! よぅし、母さん、いこう!」
リュージはカルマの頭の上に乗る。
カルマは魔力を解放し、凄まじい速さでベリアルに肉薄する。
「なるほど、多少やるようだ」
ベリアルのこぶしと、リュージの聖剣がぶつかり合う。
ガギィイイイイイイイイイイイン!
押し負けそうになるも、母の力とが合わさり、ベリアルのこぶしを弾く。
「セヤァアアアアアアアアア!」
がら空きの胴体にリュージは剣を振る。
ザシュッ……!
深い一撃が入る。
だがベリアルは右の拳を構えていた。
バリッ……! とベリアルのこぶしに黒い雷が纏う。
「母さん!」
ベリアルの狙いは母だった。
母の顔面に、ベリアルのこぶしがつき差刺さろうとする。
リュージは聖剣の腹でそれを受ける。
ガギィイイイイイイイイイイイン!
「ぐあっ!」
【りゅーくん!?】
ベリアルのこぶしを受けきれず、リュージは背後へと吹き飛ぶ。
ルコが念動力で勢いを殺そうとするが、その前にリュージは壁に激突。
ドガァアアアアアアアアアアアアアン!
「なんという……速さ。わしらでは……到底ついていけぬ」
呆然とするバブコ。
一方でルコは、リュージの元へ駆けつける。
「ぱぱっ! だいじょうぶ!?」
「う……うう……」
リュージはふらつきながらも、なんとか立ち上がる。
一方でカルマは必死になって、ベリアルとの機動戦に食らいついていた。
確かに速さは邪神と同等ではある物の、勇者の力が無ければ、致命傷を与えられない。
「すまぬ、リュージ。われらが非力なばかりに……」
「ううん、そんなことないよ。みんながいるおかげで、僕は立っていられるんだ」
リュージは聖剣を強く握りしめる。
「僕は……偽物だった。けど、歩んできた軌跡は本物。ルコやバブコは、そんな僕の歩んできた道をともにしてきた仲間。つまり……僕の生きてきた証明!」
コォオオオオオオオオオオオ!
「な、なんじゃ!? リュージの体が、黄金に輝いている!」
驚くバブコをよそに、リュージの魔力はどんどんと高まっていく。
聖剣の輝きはやがて、リュージの体を、そして彼の漆黒の髪を黄金に変えた。
「るぅたち。ちから。ぱぱ。ながれこんでいく」
「よそからチェキータやシーラの魔力も流れ込んでくる……これは……?」
彼に関わったもののすべての魔力が、リュージへと流れているのだ。




