179.エルフ、因縁にケリをつける【後編】
バッ……! とメデューサは背後を振り返る。
そこにいたのは、莫大な魔力を杖の先に宿した、ウサギ耳の少女だった。
「ば、バカな!? こんな大魔術の気配に……わたくしが気づかないなんて!」
「……どう? アタシの【隠蔽】スキル。これも、母親が娘に授けた力よ?」
ルトラの言葉に、メデューサは冷や汗をかく。
「しーちゃんは、完全に意識の外だったでしょう? あなたはいつもそう。自分より下だと思った相手をすぐに切り捨てる。その子が強く成長する可能性なんて、まったく考えずに」
チェキータの言葉は真実だった。
その際足る物が、今、牙をむいている。
「これは退魔の魔力!? こんなモブうさぎごときが使えて良い魔法じゃない!」
ずぉっ! とメデューサは蛇を伸ばそうとする。
がくんっ……!
だが体に力が全く入らなかった。
「これは毒!?」
「……ええ、そうよお母さん? あなたから学んだ毒を、有効活用させてもらっているわ」
「ち、く、しょぉおおおおおおお!」
麻痺毒を受けて、メデューサはその場から動けなくなる。
「こんな……こんな出来損ないの雑魚どもに! わたくしが負けるなんてぇええ!」
そうこうしてると、シーラが魔法を完成させる。
杖の先をメデューサに向ける。
「【神聖十字槍】!」
それは魔を退ける属性を帯びた、光の魔法。
頭上から降り注ぐのは、極光を固めたような美しく、巨大な十字の槍。
それは凄まじい早さでメデューサの体を貫く。
「ギャァアアアアアアアアアアアアア!」
強力な聖なる力が、メデューサという邪悪を焼き続ける。
再生能力が封じられている以上、今のメデューサにこの状況を打破する手段はない。
「ルトラぁあああああ! 母を助けろぉおおおおおお! おまえを作ってやったのが誰だと思ってるぅうううううう!」
「……そうね、確かにアタシを作ったのはあなたかもしれない」
「なら!」
「けど!」
ルトラはまっすぐにメデューサを見て、決然と言い放つ。
「【今】のアタシを作ってくれたのは! リュージと! その友達みんなよ!」
ルトラは矢をつがえて、それを構える。
「あなたはアタシを産んだだけだ。育ててくれたのは、貴女に捨てられた後に出会った人たちよ!」
ひゅっ……! とルトラが放った矢が、メデューサの眉間に突き刺さる。
「こんな……はず……では……」
一際強く魔法の光が輝くと、メデューサは消滅したのだった。




