179.エルフ、因縁にケリをつける【中編】
「バカな!? 一体何が起きているの!?」
振り返るとチェキータ、そして正面にも同じ顔をしたエルフが居る。
「……それは、こういうことよお母さん」
毒蛇にかまれているチェキータの姿が、じわり……とインクを水に垂らしたように不鮮明にある。
麗しいエルフは、オオカミの耳を生やした少女へと変化した。
「なっ!? ルトラ!?」
「……そう。あなたに作られた娘。人狼のルトラよ!」
ルトラは短弓を取り出して、メデューサの左目へと矢を射る。
ドスッ……!
見事矢は狙い通り命中した。
「こざかしい!」
メデューサは両腕を大蛇に変えて、振り回す。
チェキータたちはそれを回避。
メデューサから距離を取る。
「そうか……人狼の【変化】スキルで、姿をデルフリンガーへと変えていたのね」
「……ご名答。どう? あなたに仕込まれた技で反撃を喰らう気分は?」
ルトラは矢を番えながら言う。
「毒が効かないのも当然だよね。だってその毒でアタシを、散々いたぶってたものね」
「だから毒の耐性ができていたわけね……こざかしい娘!」
だがメデューサは勝ち誇った笑みを浮かべる。
「けど残念。反撃を加えたところで、わたくしには攻撃がきかない。不死の力を持つこのわたくしにはね!」
メデューサは目に刺さった矢を抜いて捨てる。
本来なら再生はすぐに始まる……はずだた。
「なに!? さ、再生が始まらない!?」
「いくわよ【みんな】! 一気にたたみかけるの!」
だっ……! とチェキータが駆け出す。
魔法で脚力を強化しているのか、凄まじい早さだ。
手にもつ剣で、メデューサに連続して斬りつける。
剣に集中していると、意識外からルトラが矢を放ってくる。
「くそっ! 邪魔をするな! 親に逆らうとはどういうことだルトラぁ!」
「……ハッ! 一度たりとも母親として何かをしてくれたことないくせに、今更母親面するな!」
ルトラは正確無比な射撃で、メデューサを追い詰める。
それは決して致命傷にはなり得ない。
だがチェキータの剣は違う。
やつの剣は一撃一撃が凄まじい攻撃力を持つ。
それの対処に全ての力を使うと、ルトラの矢によって集中力を削られる。
そこをチェキータが切り込んでくる。
非常に厄介だ。
「あなたの不死のタネは割れているわ。超人的な【再生能力】を持っているだけ。なら【能力解除】の魔法でそれを解いてあげれば、あなたはただの魔族と成り下がる」
「そうか……! 解除の魔法の準備をしている間、ルトラが入れ替わっていたのだな!」
完全に油断していた。
ルトラは弱いと見くびっていた。
だから予想外の攻撃に、対処できなかったのだ。
「だが! もう弱いからと見くびらない! おまえら全員本気で皆殺しにしてやる!」
体から何十、何百もの大蛇が生える。
それらは鞭のごとく自在に振るわれ、チェキータやルトラたちに攻撃を加える。
先ほどより強力な毒を込めている。
かすり傷を負うだけで死ぬ。
ルトラすらも。
チェキータたちは無理せず、メデューサの射程範囲外へと出る。
「近づかねばわたくしには勝てないわよ雑魚どもめ!」
蛇をさらに増産し、波濤のごとく、チェキータたちめがけて蛇を放った。
だがチェキータたちの目に絶望の色はない。
「今よ、しーちゃん!」




