23.邪竜、息子に恋人ができたと勘違する【後編】
母の胸元で光るダイヤのネックレスを見ながら、リュージは満足げにうなずく。
母の黒髪に、白銀のダイヤは、良く栄えていた。
まるで夜空に浮かぶ星のようだ。
「……………………………………………………」
リュージはカルマからの感想を待った。
だがいくら待っても、母は何も言ってこない。
不思議にも思ってカルマをよく見ると……。
「りゅ、リュージくんっ。か、カルマさんがっ、カルマさんが立ったまま気絶してるのですー!」
シーラがカルマに近づいて、言う。
そのとき母の身体が、そのまま後に、びたーんっ!! と倒れた。
「か、母さんっ! 今ゴッ……! って、頭から出ちゃいけない音出てたんだけどっ!?」
リュージもあわてて、シーラとともに、母に近づく。
シーラはうさ耳を、カルマの胸に押し当て、顔を真っ青にする。
「リュージくんっ! し、心臓が動いてないのですー!」
「ええっ!? なんでっ? 母さんっ!? 母さんしっかりしてー!!」
がくがく、とリュージは母を揺さぶる。
しかしカルマは白目をむいた状態で、心肺停止していた。
「母さんやだよっ! 起きてよ!」「ハイ起きましたーーーーーーー!!!」
びょんっ! と飛び上がってカルマが復活する。
リュージたちは後にすってんころりんと転がった。
「危ない危ない……嬉しすぎて死ぬかと思いました」
額の汗をぬぐう母。
「何言ってるの! かもじゃなくて死んでたんだよっ!」
リュージは言葉を荒げて、母の身体をぽかぽかとたたく。
母は「え、そうなのですか。気づかなかったです」とあっけらかんと言う。
「良かった……生き返って」
ほっ、と心から安堵の吐息をもらすリュージ。
「というかどうやって生き返ったの? 心臓止まってたのに」
「はっはっは。これはおかしなことを言う。息子の頼みとあらば、それがいかなる難題だろうとやってのける。それが世のお母さんというものです」
いや息子に頼まれて生き返るなんて、そんな芸当、世界広しといえど、この母にしかできないだろう。
「良かったぁ……。ぐす、カルマさんが無事で……」
えんえん、とシーラが涙を流す。
「迷惑かけましたねシーラ。あとでちゃんとお詫びします」
ふっ……と優しい顔で、カルマがシーラの頭をなでる。
うさ耳少女は「えへーっ」と笑った。こうしてみると親子のように見えなくもない。
「それで……ああそうだっ!!」
ぎゅんっ! とカルマがシーラから、リュージへと視線を向ける。
「このネックレスのお礼を言うのを忘れてましたぁああああああ! ああああああなんたる失敗! なんたる失態!」
その場でカルマが、ずしゃぁああ……! と膝をついて、両手を組んで泣きわめく。
「りゅー君からこんな素敵なプレゼントをもらったのにっ! 感想はおろかっ! ありがとうの言葉を言いそびれていたなんて! ああ罪深い! ああおゆるしくださいりゅー君ッッッッッ!」
「い、いや別にいいって」
というかあなた死んでましたよね? 感想もお礼も、それどころじゃないですよね……。
「それでりゅー君っ。このペンダントとネックレスねっ、とってもとっても、素敵ですっ!」
カルマが子供のように、無邪気な笑みを浮かべる。
「ありがとうございますりゅー君っ。これ、お母さんの宝物第二号になりましたっ!」
母がキラキラとした目を向けてくる。
「ねえねえりゅー君っ! じゃあ宝物第一号は、って聞いてくださいよっ!」
はやくぅ! と期待のこもった目を向けてくる母。
「や、やだよ恥ずかしい……」
母の求める答えはわかっていた。
けどそんなの、異性の前で言うのは、恥ずかしくていえなかった。
「じゃあお母さんが【遠隔操作】の魔法で言わせちゃおっと!」
母が魔法を発動させようとしていた。
「わ、わかったよ……。その、じゃあ、第一号は?」
すると母が、最高の笑顔を浮かべると、リュージに正面から抱きついてくる。
「それはもちろんっ、りゅー君、あなたですよーーー!!!」
……抱きつかれながら、リュージは思う。
ほんと、この母は……と。
けどそれが自分の母なのだ。
大げさで、過保護で。
最強のくせに、息子のことになると妙にメンタルが弱くなって。
息子のために行き過ぎた行動をしてしまう、規格外な存在なのだけど。
それでも……この人が。
自分の……母なのだと。
昔も、今も、この先も。
そう思い続けていたし、そう思っているし、そう思い続ける。
「さぁりゅー君、そしてシーラ! 今日はお祝いじゃあああ!」
「やったぁ~。今日もお祝いなのですー!」
「……もうっ、昨日もお祝いだったじゃん」
リュージは苦笑しながら、それでも。
結局その後。
母のお祝いの料理を、全部、きれいに食べたのだった。
お疲れ様です!
これにて2章終了となります!
次回から新展開へ入っていきます。
三章からはカルマたちの、周りの人達のこともかいていけたらなと思います。
特に今回、邪竜の姿を公にさらしたわけですし。そのあたりの反応を書こうかなという予定です。
また新キャラも出すつもりです。
ですがやることは2章までと変わりません。破天荒お母さんに振り回されるリュー君を、これからもよろしくお願いします!
次回も頑張って書きますので、よろしければ下の評価ボタンを押していただけると嬉しいです。
ではまた!