177.息子、立ち上がる【中編】
「どうして……ですって? そんなの決まってますよ」
カルマはまっすぐリュージを見やり、正面からハグをする。
「あなたが私の、大事な息子だからです」
母の甘い匂いと、柔らかなぬくもり。
それは落ち込んでいたリュージの心を、甘く優しく包み込む。
カルマは全て知って、それでも自分を、息子だと認めてくれた。
どうやって、何を使った創られたかわからない、人造物を。
自分を殺す目的で創られた、殺人兵器を。
この人は、拒むことなく、息子と呼んで抱きしめてくれた。
「……でも、でもぉ」
ぽろぽろと涙を流しながら、リュージは母に言う。
「僕は……母さんを傷つけたんだ……」
「ううん、全然痛くなかったし、傷付いてなんかいませんよ」
「僕は……母さんの人生を狂わせてしまったんだ……」
「そんなことない。あなたが来たことで、私の人生はバラ色ハッピーになりました」
カルマは顔を話し、大輪の花のごとく美しい笑みを浮かべる。
「私の長い長い孤独をいやしてくれたのはりゅーくん、あなたです。あなたがいたから私は今日まで生きて来れたんです。人生を狂わされたなんて一度も思ったことはありませんよ」
母の瞳は一変の曇りもなかった。
「あなたを拾ったあの日、私は世界で一番の宝物を見つけたと思いました。そしてその気持ちは、今も全然、変わっていません」
本心でそう言ってくれているのだ。
「でも……僕は……母さんを殺すために、創られた命なんだよ? 母さんは利用されてたんだ。僕という、自分を殺す兵器を15年もかけて……無駄な時間を、かけさせられて……」
それはぬいぐるみを、自分の子供と思い込んで15年育てていたのと同じだ。
こんな命に意味は無い。
15年は無駄だったのだ。
「そんなことはない。あなたはリュージ。私の愛しいひとり息子」
カルマはリュージの言葉を、一つ一つ受け止めて、肯定してくれる。
全てを知ってなお、彼女のなかでは、リュージは、自分の息子なのだ。
「……嘘ついてるよ」
「そんなことないです」
「嘘だよ、だって……自分を殺すために、誰かが与えた偽物の息子なんだよ? それを……どうして本物の息子だって言えるのさ?」
カルマはリュージをまっすぐ見て答える。
「そこに、愛があるからです」




