176.息子、母と再会する【後編】
ひとしきり母に罵声を浴びせた後。
しばし、沈黙があった。
『……そうね』
結界の外から、母のつぶやきが聞こえる。
『……あなたが、そう言うのなら、私は従うわ』
……ああ、良かった。
これで母は救われる。
もうこれで良かったんだ……そう思った、そのときだ。
バキッ……!
「え……?」
何かが壊れる音。
それはやがて、どんどんと大きくなる。
バキバキバキバキッ……!
目の前に、空間の【裂け目】のようなものができた。
そこから白い手が伸びて、無理矢理裂け目を大きく広げる。
裂け目から出てきたのは……黒髪の美女。
「母さん……なんで、来たの……?」
カルマはリュージを見つけると、ゆっくり近づいてくる。
リュージは母の顔を見られなかった。
「……もしも、りゅーくんが本当に、私を疎んでいるのなら、素直に身を引きました。でも……」
母はリュージの前にひざまずいて、ほおに手を触れてくる。
電撃が来る……と身構えたが、しかし何も起きなかった。
カルマは両手でリュージのほおを包み込んで、顔を持ち上げる。
「泣いている息子を放っておくことなんて、母親である私には、できません」
息子を安心させるように、カルマは笑顔で、そう言ったのだった。




