176.息子、母と再会する【中編】
リュージは大声で叫んだことに心を痛ませながら、しかし続ける。
「僕のことはもうほっといてよ! もう母さんなんて顔も見たくないんだ!」
……違う。
本当は誰よりも、今母の笑顔を見たいのは自分だ。
だが駄目なのだ。
もうこれ以上、リュージは母の人生を奪うわけにはいかない。
だって自分は母を殺すために生まれた兵器だから。
「母さんなんて嫌いだ! だいっきらいだ! いっつもいっつも僕にベタベタベタベタ……うっとおしかったんだよ!」
……リュージは心ない言葉で、母を傷つける。
カルマは繊細な女性だ。
息子に嫌いと言われただけで泣いてしまう、もろい心の持ち主だ。
ならばもっと酷い言葉で罵れば、さすがの母も、自分に愛想を尽かせていくだろう。
「だいたいあんたなんて僕を産んだ本当の母親じゃないくせに! なに母親面してるんだよ! 正直すっごい迷惑だった! 超すごいウザかったんだよ!」
……叫ぶたび見えないナイフが、母の心を傷つけていくのがわかった。
それと同時に自分の心も痛んだ。
そのナイフは諸刃の剣だから。
「僕はあんたのこと母親だったなんて一度も思ったことない! あんたと僕とは他人同士なんだ!」
……なんて酷い息子だろう。
いや、それでいいんだ。
自分の育てた息子は、酷い奴だった。
恩知らずの最低な奴だったと思われたかった。
……だってそうすれば、もう母はこれ以上、傷つかずにすむから。
リュージは最初から自分の息子ではなかった。
だからそんな赤の他人がこの後死んだところで、母の心は傷つかない。
誰かと結婚し、血のつながった本物の息子とともに、幸せになって欲しい。
……たとえリュージが、傷付いたとしても。
「帰れ! もう……二度と僕の前に顔を出すな!」




