23.邪竜、息子に恋人ができたと勘違する【中編】
そして数時間後、夕方。
リュージは獣人シーラとともに、自宅に戻ってきた。
ドアを開けて……。
ガンッ!
と何かにぶつかる音と「あうん」と、いう可愛らしい悲鳴。
何だと思って足下を見やると、母がドアの前で正座して、額を手で押さえていた。
「か、母さんっ? 大丈夫っ?」
リュージが慌てて、母のもとへ近づく。
「大丈夫です。へいちゃらです」
すくっ、と立ち上がって、カルマが言う。
「額、こぶになってない?」
おそらくドアの前に母がいて、ドアが額にぶつかったのだろう。
リュージは心配して、母の額に手を触れる。
腫れている感じはなかった。
と、そのときだった。
「…………。ふぇぇええええええええええええええええん!」
と大泣きしだしたのである。
「か、母さんっ? 痛かったのっ?」
「ち゛がい゛ま゛す゛ぅ゛~……! 息゛子゛に゛心゛配゛し゛て゛も゛ら゛え゛た゛こ゛と゛がぁ゛、嬉゛し゛ く゛て゛ぇ゛~~~~~~~!」
わんわんと子供のように泣きわめくカルマ。
リュージはほっとした。
良かった大丈夫みたいだ。
母がおおげさなのはいつも通りなので、むしろ安心した。
「今日という日を、りゅー君がお母さんの身の安全を心配してくれた日として、国民の祝日に設定しましょう!」
「それもうあるんじゃなかったっけ?」
飛び上がって涙を拭いたカルマが、そんなアホなことを言が、リュージは軽くスルーする。
「祝日はいくつあっても良いものです。名前が被るのなら、【りゅー君がお母さんの身の安全を心配してくれた日まーくつー】として設定しましょう」
「そんなことより母さん」
いつまでたっても話が進まないので、リュージはさっさと用件を済ませることにする。
このために今日は、シーラとともに街へ出かけたのだから。
「渡したいものがあるんだ」
「渡したいもの? りゅー君からはいついかなるときでも、私に癒やしを渡してもらってますけど」
「そんな形のないものじゃなくて」
リュージは苦笑しながら、ポケットから小さな箱を取り出す。
箱を開けると、そこには……。
「ブローチ、ですか?」
金剛石を加工して作った、ブローチのようだ。
金の台座に、大粒のダイヤモンドが乗っている。
「ううん、ブローチじゃないんだ。母さん、前にあげたネックレス、貸してくれない?」
母はうなづいて、その首につけてあった、銀のネックレスを手渡してくる。
「前から思ってたんだ。あげたそのネックレス、ちょっと安っぽすぎるよねって」
「そそそそ、そんな滅相もない! 息子がお金を出して買ってくれたものですよ! それだけで最高のプレゼントですよ! 国宝に指定してもいいくらいですねっ!」
「そんなわけないでしょ、もうっ」
苦笑しつつ、リュージは嬉しく思う。
そうやってあげたものを、大切に思ってくれているのだから。
ただやっぱり、リュージがあげたそのネックレスには、何も飾りも、宝石すら、ついてなかった。
ちょっと、殺風景すぎるというか、安物感が否めなかった。
リュージはネックレスに、先ほどのブローチをつっくけて、完成。
「うん。できた。はい母さん」
完成したそれを、リュージは手渡す。
「これは……! これはぁああっ!!」
さっきまでは、簡素なネックレスだったのだが。
金剛石のブローチがくっついたことで、胸飾りとしてのグレードがあがった……ように、リュージには思えた。
「母さんに似合う宝石を探してたんだ。何が良いかなって。そしたらシーラがね」
リュージは後でモジモジとしている兎獣人をちらりと見やる。
「この間たおした、こんごーかぶとさんから取れたダイヤモンドは、どうかなーって」
前回倒したボスモンスターからは、魔力結晶(換金アイテム)のほかにも、アイテムをドロップしていたのだ。
その中に、金剛石の塊というアイテムがあった。
「宝石店の人に加工をお願いできる店を紹介してもらって、それ作ってきたんだ」