174.邪神王、完全復活する【後編】
邪神王が復活した。
その瞬間、バブコ、そしてルコはその場に崩れ落ちそうになる。
「ばぶこ。……やばい。べりある。まえより。つよい……」
「ああ……わしにはわかる。あの肉体は元は勇者ユートのもの。そこにベリアルの魂が完全に定着している。聖なる最強と、邪悪なる最強。ふたつの無双の力が、完全に融合しておる……」
バブコたちは、立っているだけでもやっとだ。
新生ベリアルの発する強大な魔力を前に、体がバラバラになりかけている。
それもそのはず。
ルコたち魔族の体を、勇者の聖なる魔力が打ち消そうとしているからだ。
勇者には破邪の力。
すなわち、モンスターや魔族に対して有効な、聖なる力を持ち合わせる。
魔族であるふたりにとって、勇者は天敵。
天敵が、元々ある最強の、邪神能力を持っている。
「無理……るぅたち、かてっこないよ……」
「ばかもの! あきらめるな! リュージを救う、そうきめただろうが!」
バブコに叱咤され、ルコはこくり……とうなずく。
「わしらを救ってくれた、あの優しい親子のため、死力を尽くすはいまぞ!」
「バブコ……わかった。るぅ……がんばる!」
ふたりは魔力を高める。
ルコは念動力で、万力の力でベリアルを閉めあげる。
バブコは先ほどの何十倍もの大きさの、爆炎虫の塊を作り出す。
「「はぁああああああああ!」」
渾身の力を、ベリアルにたたき込めようとした、そのときだ。
「ひれ伏せ」
グシャッ……!
ルコとバブコが、地面に体を勢いよくたたきつけられたのだ。
「ガハッ……!」
まるで、とてつもなく重いものが、背中に乗っているかのようだ。
だが魔法を使っている痕跡もなければ、そもそも何ものっていない。
「まさか……言葉だけで、わしらを押しつぶしてるのか……?」
能力でも技能でもなく、純粋に。
体が、ベリアルの言うことを、効いてしまっているのだ。
逆らえば死ぬと細胞が震える。
ゆえに、無自覚に、相手の命令に従ってしまったのだろう。
ベリアルはわずらわしそうに、手を払う。
それだけで、ルコの最大出力の念動力をはじき返す。
ふぅ……とベリアルがため息をつく。
爆炎虫は、かき消された。
「なんという……強さじゃ……」
ぐぐ……っと力を込めて、なんとか立ち上がるふたり。
「あきらめる?」
「ハッ……! まさかじゃろ」
ぐいっ、とバブコは口元の血をぬぐう。
「わしらは、決して諦めぬ。生きて、みなのもとへ帰るのじゃ!」
それは決意表明ではなく、己を鼓舞しているだけに過ぎなかった。
ふたりとも、自分が死ぬという確信があった。
それほどまでに、完全復活したベリアルは強い。
きっと、もう二度とリュージたちには会えないだろう。
それでも、戦わなければならない。
母親が、息子と再会する時間を、少しでもかせぐために。
二人の娘は、決死の覚悟で、地上最強に挑むのだった。




