174.邪神王、完全復活する【中編】
魔王の間にて。
元魔王四天王ふたりは、世界蛇ヨルムンガンドと交戦中。
世界蛇はバブコの一撃を受け、昏倒しているようだ。
ルコは両手を広げる。
ヨルムンガンドがぶつかったことで壊れた壁の破片などが浮かび上がる。
念動力を使い、破片で世界蛇の体を串刺しにする。
「効いておる! 邪神の力は無効化するようじゃが、いまのわしらは勇者の眷属! プラスの力にはかなわぬようじゃな!」
バブコの能力は、あらゆる虫を生成、操ること。
広げた手に昆虫たちが集い、竜巻のように回転し出す。
「削れ、虫どもよ!」
バブコの命令で、昆虫たちが黒い嵐となって、ヨルムンガンドへ襲いかかる。
ガガガガガガガガガッ……!
虫の大群は、世界蛇の体を中心に、らせんを描くようにまとわりつく。
虫たちの角や牙は、蟲王ベルゼバブの魔力によって、硬度が強化されていた。
それはダイヤモンド以上の堅さをもつ。
虫たちに嵐により、ヨルムンガンドの体は傷つけられる。
魚の鱗のように、たやすく、世界蛇の固い鱗は剥がれていった。
「今じゃ! いくぞルコ!」
先ほど爆発を起こした虫たちが、ルコの周囲に集まる。
それはこぶしの形へと変化する。
ルコの念動力が発動。
虫の塊が、ルコの能力によって、凄まじい早さで飛んでいく。
空気の層を凄まじい早さでつきやぶりながら、光速で拳が飛翔する。
摩擦熱により燃えさかる虫の塊は、流星のごとく尾を引きながら、やがて防御を失ったヨルムンガンドに激突した。
ドガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!
先ほどよりも激しい爆発。
城を揺らし、床や天井を破壊するほどの威力だ。
「やったかの……」
爆発による煙が、天井から吹く風によって晴れる。
消し炭になったはずの蛇は……いなかった。
「なっ!? どうなっておる!?」
「! バブコ! うえ!」
バッ……! と上空を見上げる。
そこにいたのは、見覚えのある姿だった。
「あ……ああ……」
ぺたん、とバブコが尻餅をつく。
「遅かった……やつが、復活してしまったか……」
そいつは、恐ろしいほどに純白だった。
肌も髪もシミ一つ無い白。
だが体から発する、凄まじいオーラの色は、この世すべての悪を凝縮したかのような漆黒。
その目は、古今東西の戦争により流れた血を凝縮したのかと錯覚するほど、鮮烈な赤。
バブコは知っている。
かつての主人の名前を、つぶやく。
「邪神王、ベリアル。完全に、復活してしまったか……」




