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23.邪竜、息子に恋人ができたと勘違する【前編】

お世話になってます!

今回は前中後編となってます。




 息子リュージとその相棒シーラが、金剛カブトを倒した、翌日のことだ。


 昼頃。


 カルマは自宅のリビングいた。


 そこに監視者のエルフである、チェキータがやってくる。


「ハァイ、カルマ。またリューを監視してるの?」


 チェキータが苦笑しながら、カルマを見て言う。


 邪竜はイスに座って、【鏡】を手に持ち、血走った目で、そこに映し出されてる映像を見ていた。


「うるさいです。今とんでもなく、エマージェンシーな事態が起きてるのですよっ。あなたにかまってる暇はないんです!!!」


 カルマが顔を、鏡にこすりつけながら言う。


「危険ねえ。今日はリュー、非番なんでしょ。別に迷宮に潜ってもないのに、危険なことなんて、ないんじゃない?」


「バカがっ! 非番だからこそ緊急事態になっているのでしょうが! 見なさいこれを!」


 カルマが鏡を、チェキータに押しつける。


「あら、リューとシーちゃんじゃない。ふたりが……あらあら、宝石店に入っていくわね」


 鏡には、天空城から送られてきた監視映像が、映し出されている。


 それによると、非番のリュージは、シーラを誘って、街へ繰り出したのだ。


「あなた、ついて行くって、よく言わなかったわね」


「それは……だってりゅー君がついてこないでー、って言ってましたし。本当は凄くついていきたかったのですが、また前みたいに落ち込ませるわけには……いかないですし」


 前みたいに、とは、ボスモンスター接待試合事件のことだ。


 母が息子について行った結果、リュージはとても落ち込んでしまったのだ。


「そう。成長したわねカルマ」


 余裕ある笑みを浮かべるチェキータ。


「しかしうぐぐ……やはりついていくべきでした……うごごご……」


 鏡の中では、シーラとリュージが、宝石を選んでいる。


『どれがいいかな?』

『どれでも似合うと思うのですっ』


 わきあいあいとする息子たちを見て……カルマはガタガタガタ……と歯を振るわせる。


「こ、これはもしや俗に言う……」


「ふんふん」


「恋人に送る宝石を選んでる、というやつでしょうかっ!?」


 そうに違いない! とカルマは確信を持って言う。


 年の近い男女。宝石店。どれが似合うかな?


 これらの要素から、リュージがシーラに、交際を申し込んでいるのだ。


 そう結論づけた。


 ああまだ早い! 交際はまだ早すぎる! せめてお母さん面接(2nd)をしてから!


 とカルマは動揺しまくっていた。


 その一方で、チェキータはポカーン……と口を開けた後、ケラケラと笑う。


「あ~……おっかし~……。どうしてそうなるのよ」


 やれやれ、とエルフが首を振るう。


「でもあなたって、ほーんと面白いわ。うんうん。見ていてほんと飽きないわよ」


 チェキータがにやにやしながら、カルマの肩をぽんぽんたたく。


「その余裕のある感じ、最高に腹が立つので、早急にやめてください」


 べしっ、とカルマは監視者の手を払いのける。


「あらあらなーに怒っちゃったの?」


 クスクス笑って、チェキータがカルマに背後から抱きついてくる。


 ぐんにょりと乳房が背中に当たる。


「その無駄な脂肪の塊、私におしつけないでください。うっとおしい」


「ねたましいの間違いじゃないの? リューにお乳をあげたおっぱいだからって」


「あ゛ーーーーーうっさいうっさいです!とっとと消えてくださいよっ!」


 カルマが右手に、万物破壊の雷を宿す。


「はいはいごめんなさいね。じゃお姉さんこれで退散するわ」


 チェキータはひらひら、と手を振ってその場を離れようとした……そのときだ。


 ……きゅっ。


 と、カルマが、監視者の服のすそをつまんできたのだ。


「あら、なにかしら?」


「…………別に」


 カルマは言葉を濁す。


 言おうと思って準備した言葉が、感情のフィルターにひっかかって、外に出ずに消えてしまう。


 この女に頼るのは、非常に、とてつもなく、しゃくだ。


 だが無駄に長く生きてるこのエルフなら、答えを知っているかもしれないのだ。


 ……さっきのカルマの発言を、この女は【どうしてそうなるのか】と言った。


 それはつまり、カルマの先ほどの推論、息子が恋人にプロポーズうんぬんは、間違っているかもしれないということだ。


 そして正しい答えを、この女は知っているようだ。


 だから教えて……と言いたくても、いいたくなかった。


 母親のように、息子リュージの全てを知っていて、母親のように、余裕ある所作をする。


 そんな【自分より母親らしい】チェキータのことが、カルマは嫌いだった。


 ……彼女と比べると、どうして、自分の未熟さが目立つから。


 けど、それでもこの女を完全に遠ざけることはできなかった。


 聞きたかった。アドバイスを。答えを。


 答えを知り、母として、息子をより深く理解したいから。


「ふふっ、カルマ。あなた、ほんとに成長したわね。立派に、母親してるわよ」


 チェキータがカルマに近づいて、きゅっ、と抱きしめる。


「……お世辞は、辞めてくださいよ」


「あら心外~。お世辞じゃないわ。大丈夫、あなたは立派な母親よ。たとえ血が繋がってなくても、あの子を産んでなくても、ね」


「………………ふんだ」


 別に嬉しくなんてなともないが、まあちょっとだけ心が晴れやかになったのは……内緒だ。


 絶対に、この女に内情をさらしてなるものか、とカルマは固く誓う。


「そうねー、じゃあヒント」


 ぱっ、とチェキータが離れる。


「もし本当に、恋人にプレゼントを贈るのなら、恋人と一緒にお店へはいかないわ」


「そうなのですか?」


「そういうものよ。当たり前じゃない。プレゼントって、相手に【贈る】ものよ。なんで贈る相手と一緒にものを選ぶの?」


「……言われてみれば、確かにそうですね」


 エルフに指摘されるまで、カルマは違和感に気づけなかった。


 息子がシーラをめとってはらませて結婚ゴールインからの初孫誕生おめでとう!


 みたいなストーリーが先行してしまって、感情的になってしまい、冷静な判断が下せないでいたのだ。


 チェキータはそんなカルマの心の動きを見透かしたように笑う。


「まぁ、立派な母親といっても、母親としてのレベルはまだまだ赤点レベルね」


 そう言われて、カルマは最高にムカついた。


 チェキーターの方が母として格上だと、わかっているがゆえに。図星をつかれ、ムカついたのだ。


「とっとと出て行けこの無駄肉エルフ!」


 カルマは万物破壊を発動させようとする。


 が、次の瞬間には、監視者は音もなく消えてしまっていた。


【リューが帰ってくれば全てわかるから。それじゃ、まったねー】


 声だけでカルマにそう言うと、チェキータの気配は完全に消えた。


 後にはカルマだけが残される。


「……まったく、嫌な女ですよ、ほんと」


 カルマはイスに座って、ほぅとため息をつく。


 先ほどまでの、感情の高ぶりは、なくなっていた。


 ……帰ってくれば全てがわかる。


 別にあのエルフの言葉を、信用したわけではないが、まあ、いちおうね。


 あの女の言葉が嘘である可能性も、なくはないけど、まあ、ね。


「とりあえず帰ってくるのを、待つとしますか」


 カルマは気づけば、先ほどよりも穏やかな心持ちで、息子の帰りを、待てそうだった。


 いや、だから、別にあの女に安心感をもらったわけじゃないんだけれど。 

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[気になる点] サブタイトルは勘違ではなく勘違いでは?
2022/06/19 00:21 退会済み
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