22.邪竜、ボス部屋へやってきた冒険者を追い払う【後編】
地下ダンジョンのボス部屋の前にて。
見上げるほどの巨体を持つ、邪悪なる竜が、冒険者たちを見下ろす。
兄貴とその子分が、顔を恐怖で真っ青に染めて、邪竜を見てくる。
【ああ。うん。助かりました】
邪竜の姿のまま、カルマが不敵に笑う。
開いた口からは、剣山のような、鋭い歯がのぞいている。
【やってきたのが、おまえたちのような人間で】
よかった。善良なる冒険者だったら、きっとあの子は、心を痛めてしまうだろうから。
「な、なんだこいつ……なんだよこいつ!?」
「あ、兄貴ぃ! や、やばいですよこのドラゴンっ! と、とととと、とんでもなく強そうですよぉ!!!」
カルマの凶悪きわまる姿を見て、悲鳴をあげる冒険者たち。
このときばかりは、自分の怖い見た目に、カルマは感謝した。
無用な争いを避けて、あの子を守ることができるのだから。
あの子を守るためならば、たとえ自分を見て怖がられても……ぜんぜん、へいちゃらだ。
【さておまえたちは冒険者だな】
カルマは兄貴と子分を見下ろしながら、感情を押し殺して言う。
「ひぎっっ!!」
「がぁああっっ!!!」
カルマにしゃべりかけられただけで、冒険者たちは腰を抜かす。
別に何か特別なことをしたわけではない。
ただ神を殺して手に入れた、相手を萎縮させるスキルが勝手に発動しただけ。
そして何より……カルマの身からにじみ出る、不機嫌さがオーラとなって、身体全体から放射していた。
【私は故あってここを守護するものだ。この部屋に入りたければ、この私を倒しなさい】
「そ、そんなの無理に決まってるだろおぉ!!!」
「あ、兄きぃ……! 逃げましょう! やばいですよこいつぁ!!」
「そんなのわかってる! くそ、足が、足が動かねええええええええ!!」
恐怖にがたがた震える冒険者たちは、逃げたくても、逃げられないようだった。
邪竜は彼らを見て言う。
【おまえたちを殺すのは私の本意ではない。部屋に入らず立ち去るというのなら、私はおまえたちに手を出さないが……どうする?】
このまま怒気を彼らに浴びせてもいい。
息子の手柄を横取りしようとした、この不届き者たちだ。
遠慮する必要はないだろうが。
しかし自分は、怒気をそのままぶつけると、彼らを殺してしまう恐れがあった。
以前少し本気で睨みつけただけで、モンスターを殺したことがあったから。
「か、帰ります帰ります!」
「この場から立ち去りますから命だけは! 命だけはご勘弁くださいいいいいいいいいいい!!!」
土下座する二人組に、カルマはホッ……と安堵の吐息をつく。
【そうですか。ではあなたがたを、地上へ送って差し上げましょう】
カルマは天井を見上げる。
テレポートを使う……のでは、ない。
すぅ……っと息を吸い込む。
胸に抱えたストレス……主に息子を守れないふがいなさとか、息子に助太刀できないやるせなさとか、諸々のストレスを。
全て、はき出すように。
ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!
ドラゴンの息吹を、カルマは天井へ向けてはき出す。
高温度、そして高火力のブレスは、ダンジョンの天井を、たやすく突き破る。
何せ月を壊すブレスだ。ダンジョンの壁や天井なんて、それこそ紙のように、たやすく壊せるだろう。
目の前の竜のブレスに圧倒され、泡を吹いて倒れる冒険者たち。
カルマは彼らのそばに近寄り、爪でひょいっと、つまみ上げる。
軽くつまんでぽいっと投げる。
ビュンッッ…………!!!
と彼らが天井の開いた穴へ向かって、とてつもない勢いで、吹き飛んでいった。
きらんっ、と星になる冒険者たち。
【結界の魔法をかけておきました。落下のダメージをすべて打ち消しますし、死ぬことはないでしょう】
いちおう監視システムを使って、彼らのその後を見てみる。
結界に保護された彼らは、天高くから地上へと落下。
隕石が落ちたかのような後を残していたが、結界のおかげで全くの無事。
みごと、地上へ生還を果たしていた。
カルマは邪竜から、人間の姿に戻る。
「うん。良かったです。無事に邪魔者を追い払えました」
と、一仕事を終えた、そのときだった。
ぎぎ……。
と、背後のドアがきしむ音がした。
「!」
カルマは振り返る。
ぎぎ……ぎぎぎっ…………。
とドアが重々しく、開かれる。
開かれた先には……笑顔の息子と、そしてその相棒がいた。
「母さんっ! やったよ!」
「シーラたち、倒したのです!!」
カルマは花の咲いたような笑みを浮かべる。
その場で倒れそうになるのを、ぐっとこらえて。
息子たちを出迎えて、言った。
「お帰りなさい、ふたりとも! よーーく頑張りましたねっ!!!」
お疲れ様です!
次回で2章終了となります。
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ではまた!