168.邪竜、息子を救出に向かう【後編】
チェキータはしばし泣きはらした後。
「さて、泣き止みましたね。では行きますよ」
チェキータは自分の回復魔法を使い、傷を癒やす。
「行くって……まさか」
「ええ。りゅーくんを取り戻しに向かいます」
カルマが決然とそういう。
その瞳はみじんも揺らいでいない。
「相手はあの巨大蛇に魔王四天王のメデューサ。それに完全復活間際の邪神ベリアルがいるのよ?」
「だから?」
「だからって……危険だわ」
「危険だからって、私がりゅーくんを助けにいかない理由にはなりません」
「けど、あなたにはもう、邪神の力はないのよっ?」
チェキータはリュージも大事だが、カルマもまた我が子のように思っているのだ。
正直、相手の戦力が大きすぎる。
「手負いのわたしに、最強の力を失ったカルマのふたりだけでなんとかなる相手じゃないわ」
と、そのときだった。
「ふたりだけじゃ、ないのです!」
部屋に入ってきたのは、魔術師のローブを身にまとううさ耳の少女、シーラだ。
「ルーちゃんから聞きました。しーらもいきます! りゅーじくんを助けに!」
シーラもまた、覚悟の決まった女の目をしていた。
「るぅ。いく!」
「わらわも参るぞ」
ルコにバブコという、リュージの娘までもが、父親のピンチに駆けつけようとしていた。
「……もちろん。私もいく」
これでカルマ。シーラ。ルコ。バブコ。ルトラが、リュージ救出に向かおうとしていることとなる。
「……あなたたち、わかっているの? 相手は強大なのよ?」
「そんなの関係ありませんよ」
カルマはまっすぐにチェキータを見やる。
「愛しい我が子が悪い大人に捕まってしまったら、助けに行くのが母親というものでしょう?」
「カルマ……。まだ、あの子のことを息子だと思ってくれるの?」
「当たり前ですよ」
にかっとカルマが笑う。
「りゅーくんは私の世界で一番の、超最高でウルトラぷりてぃーな息子です!」
純粋無垢で、力強いその瞳は、以前のカルマそのものだった。
「りゅーくんを助けに行きます。チェキータ、力を貸してください」
カルマがチェキータに手を伸ばす。
……いつもなら、逆だったのに。
今では、逆に手を伸ばし、引き上げるまでになっていた。
「……成長したわね、カルマ」
娘の成長を喜ぶ母のごとく、チェキータは美しい笑みを浮かべた。
パシッ、とチェキータはカルマの手を取り、立ち上がる。
「さぁ、いきますよ! りゅーくんを取り戻し、ついでに世界もサクッと救いましょう!」




