166.息子、捕まる【前編】
メデューサから真実を告げられてから、数十分後。
リュージは呆然と、カミィーナの町を歩いていた。
「…………」
先ほど発覚した事実。
それは、リュ-ジがカルマを殺すためだけに作られた生物兵器だった、ということ。
「…………」
無人島で、人造の存在であることを聞かされた。
そのときもショックだったが、母はそんな自分を受け入れてくれた。
だからリュージは立ち直れた。
……しかし、今回は。
自分は母を殺す存在だった。
そんなことを……母が受け入れてくれるはずもない。
もしも、息子の真実を、母が知ってしまったら……。
いくらカルマであろうと、リュージを拒むに決まっている。
今まで、あふれるほどの愛を注いでくれていた母が。
自分を怖がったり、拒絶するかもしれないということに、リュージはすさまじい恐怖を覚えた。
「どうしよう……どうすば、いいの……」
リュージは完全に迷子になっていた。
今までは、自分の前に壁が立ち塞がることは全くなかった。
襲い来る障害は、すべて母が瞬く間に取り除いてくれていたからだ。
しかし今、カルマを完全に頼ることができない状況にある。
今まで、そんなこと、生まれて一度もなかった故に、リュージは対処方法がわからないでいた。
「……ひくっ。ぐすっ」
いろんなことが一気に起きて、リュージはストレスに耐えきれなくなって涙を流した。
「ごめんね……母さん……生きてて……ごめんね……」
一生懸命に育ててくれた母に、申し訳がなかった。
血がつながっていない自分を、我が子同然……いや、それ以上に愛してくれたのに。
「……ごめん。母さん。ごめんね……」
と、そのときだ。
ゴゴゴゴゴ……!!!
「な、なんだ……地震……?」
突如として激しく地面が揺れ動いたのだ。
空が暗雲に包まれる。
ぽつ……ぽつ……と天から雨が降り注ぐ。
ジュッ……!
雨は石畳の地面にぶつかると、そんな音を立てて、石を溶かしたのだ。
「酸……? い、いったいなにが……?」
リュージは周囲を見渡す。
だがいつものカミィーナの町並みが広がっているだけ……。
いや、違う。
「なんだろう……邪悪な気配がする……」
勇者としての力に目覚めたリュージは、いちはやくその存在に気づくことができた。
リュージは異常な気配の方へ向かって、走り出す。
勇者の力がリュージの身体能力を向上させていた。
だっ……! と強く跳躍し、町の屋根を伝い、あっという間に町を囲む壁の上までやってきた。
「なっ!? なんだあれ!?」
遠くにいたのは、驚くほど巨大な、銀色の蛇だった。
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