22.邪竜、ボス部屋へやってきた冒険者を追い払う【前編】
いつもお世話になってます!
息子たちがボスモンスターに挑むべく、ボス部屋に入ってから5分後。
「ああ……!! りゅー君あぶなぁあああああい!!!」
場所はボス部屋のすぐ前。
大きすぎるドアの前に、カルマが立っている。
その手には【鏡】がにぎられている。
鏡には、天空城から送られてくる、リュージたちの様子が、映し出されていた。
天空城からの監視映像は、たとえここが地下であっても、撮影が可能なのである。
鏡の中では、リュージと、そしてシーラが、ボスモンスター・金剛カブトと激闘を繰り広げていた。
「あ゛ぁあ! りゅー君にカブトのツノが向かってくる! 危ない! よけてぇえええええええええ!!! よけろぉおおおおおおおお!!!」
血走った目で、カルマは鏡越しに、エールを送る。
「よぉおおおし! 避けたぁああ! さすが私の息子! リュージ竜の子強い子なのですよー!!」
ひゃっはー! とカルマがぴょんぴょんと飛び跳ねて喜ぶ。
カルマはそう、部屋の外で、リュージたちの戦う様を、ただ観戦していた。
……本当は、すぐ近くで見ていたい。
……本当は、息子を危ない目に遭わせたくない。
けど。
しかし。
カルマは反省したのだ。
自分がそばにいると、カブトは息子に対して、接待試合をしてしまう。
それはリュージたちの戦いを、邪魔してしまうと。
だからカルマは、とってもとっても、部屋の中に入りたい気持ちを、ぐっとこらえて、部屋の外で観戦しているのである。
「ああ! シーラないすアシストですよ! 火球がぶつかり、のけぞってるところにりゅー君の剣が! いけいけっ! そこだぞ頑張れー!!」
この声が、中に届くことはない。
ドア向こうの音は、いっさい外には聞こえてこないのだから。
それでもカルマは応援する。
この声が、壁を超えて、息子の背中を押してくれると信じて。
「がんばれぇえええ! りゅー君がんばれぇえええええええ!」
と大声を出して応援していた……そのときだ。
「むっ……! 人の気配がしますね」
がばっ、とカルマは視線を、鏡から、天井へと移す。
邪神をたおして神殺しとなったカルマは、ステータスや魔力量が増大しただけでなく、特別なスキルもゲットした。
神殺しのスキル・【索敵(最上級)】
一定範囲内に、自分以外の生物が入った際、使用者に知らせるスキルである。
カルマは無属性魔法【探知】が発動させる。
範囲内に入った生物の位置情報や数が、脳内に流れ込んでくる。
「人間がふたり。状況的にいえば冒険者でしょうか」
魔法を切って考える。
「この上の階層から、階段を使って……ここボス部屋を目指してるようです。つまりボスに挑もうとしてると……」
カルマは鏡を見やる。
リュージたちはカブトに必死に食らいついている。
ぼろぼろになる息子を見て……胸が張り裂けそうになった。
今すぐ息子のそばへ行き、魔法でいやしてあげたい。
リュージを傷つけたあのカブトを、再び消し炭にしてやりたい。
息子を守りたい……。息子を守りたい。息子を! 守りたい!!
……そう叫ぶ自分の心を、必死なって押さえ込む。
そして今、自分がすべきことを、考える。
「……このままでは、ボス部屋にあの冒険者どもが到達します。天空城からの映像を見る限り、りゅー君たちに加勢してくれる……とは思えません。最悪、手柄を横取りされるかも」
ようするにリュージたちが必死になって弱らせたカブトを、今から来る冒険者たちが、たおしてしまうのではないか。
とカルマは危惧しているのだ。
「……そうは、させない」
カルマは鏡を……手放し、割る。
息子の応援。それよりも、今は、するべきことがあるから。
目を閉じる。そして、「変身!」とつぶやいた。
カルマの姿が、人間から竜へと変化する。
見上げるほどの大きさの、漆黒の邪竜が、ボス部屋の前に君臨する。
ややあって、そこへ二人組の冒険者が、やってくる。
一人は偉そうだ。一人はその子分だろうか。
「兄貴ぃ~。そろそろボス部屋に到着しますぜ~」
「おうよ。ギルドで盗み聞きした情報じゃあ、先にここへ来て、ボスに挑んでいるらしいじゃねえか」
「へへっ、じゃあそいつらが弱らせたカブトを、おいらたちが横取りすれば」
「おうとも。楽にボスを倒せるわけだ。手柄はまるごと、俺たちのもんってわけだっ!」
「さっすが兄貴ぃ! 頭良い………………………」
子分がぴたり、と足を止める。
「どうしたおまえ? 顔が真っ青だぞ?」
兄貴が子分に尋ねる。
「あ、あにあに、兄貴……ま、前前っ!」
「あ? 前……………………」
兄貴も、そして子分も、言葉を失った。
目の前の、最強を見て。