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冒険に、ついてこないでお母さん! 〜 超過保護な最強ドラゴンに育てられた息子、母親同伴で冒険者になる  作者: 茨木野
11章「最終決戦編」

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163.邪竜、母を失う【後編】


「私のことが……好きだから?」


 死にかけている母の体を抱き起こしながら、カルマは首をかしげる。


「そう……わがはいは……カルマが好きだ。この世の誰よりも愛している」


「そんな……嘘ですよ。ならどうして、どうして、子供の時、私を放って出て行ってのですか!」


 幼い頃から、マキナはカルマの育児を放棄していた。


 いつもカルマは、巣穴に1人、孤独に震えていたのだ。


「わがはいには……使命があった。勇者の遺体……それを守る役目が」


 マキナ曰く、この間の無人島に、勇者の遺体が眠っていたらしい。


「遺体の存在にメデューサが気付けば、復活に使われてしまう。だから、わがはいは結界を張って、メデューサの目から、遺体を守る必要があった。……今となっては、詮無きことだがな」


 結界の維持には、長くあの無人島を離れるわけにはいかないらしかった。


 だから、マキナは家に長居できなかったのだという。


「そんな……あなたがどうしてそんなことしないといけないのですか?」


「だって……ベリアルが復活したら、大事な娘のいるこの星が、滅んでしまうでしょう」


 大事な娘と、マキナはカルマを見て、ハッキリと言った。


「娘の平和を……わがはいは守りたかった。けれど……そのせいでさみしい思いをさせてしまった。ごめんね……カルマ。本当に……ごめんね」


 死の淵で語るその言葉が、嘘偽りでない保証はない。


 けれどカルマは、マキナが嘘を言っているとは、思えなかった。


「じゃあ……じゃあどうして、私に冷たく当たったの?」


「……必要な、ことだからだ。いいか、カルマ。よく……お聞き」


 マキナはカルマを、見上げる。

 その目には生気がほとんどなかった。


 体を構成する魔力のほとんどが、失われていた。


 母がもう長くはないと……直感的に悟った。


「母親の仕事は……子供を甘やかすことでは、決して無い。母親は、子供が強く生きていける手助けをする、存在でなくてはいけないのだ」


 見る見ると、マキナがしぼんでいく。


「優しさは、必要だ。だが過剰な優しさは、それは子供にとって邪魔となる。時には突きはなし、自分で解決させる力を身に付けさせる。それもまた、母親の仕事なんだよ」


「じゃあ……あなたは……私のためを思って……ワザと……?」


 マキナは小さく微笑む。


「ごめんねぇ……不器用な母親で。わかりにくかったね……。ほんと、あなたとわがはいは、似たもの親子ね……」


「ッ! そうですよ! 私はバカで、直情的で! 不器用で! だからちゃんと言ってくれなきゃ、わからないんですよ!」


 カルマはマキナの体を、力強く抱きしめる。


「なんでもっと早く言ってくれなかったの!? なんでもっとちゃんと言ってくれなかったの!? 私は……もっともっと、お母さんのそばにいたかったよ!」


 マキナはカルマを見て、安堵の笑みを浮かべる。


「ああ……カルマ……。おまえは、今も、わがはいを……母と呼んでくれるのだな」


 目を閉じて、マキナが小さく、つぶやく。

「ありがとう……カルマ。大好きだったよ……わがはいの、大事な……」


 それだけ言うと、マキナはかくっ、と体から完全に力を抜く。


「マキナ……? マキナ。マキナっ!」


 カルマはマキナの肩を強く揺する。


 だがどれだけ揺すろうと、叫ぼうと、マキナは決して、目を覚まそうとしない。


「起きてよ! まだあなたに言いたいことがたくさんあるんだよ! だから……だから目を覚ましてよ!!!!」


 カルマは必死になって、腕の中で冷たくなった彼女の言う。


「お母さん!!!!!」


 ……かくして、カルマの母マキナアビスは、その生涯の幕を下ろしたのだった。

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