163.邪竜、母を失う【中編】
半身を失い、死にかけているマキナ。
カルマの腕の中で、マキナがつぶやく。
「もうわがはいは……長くない。死ぬ前に……残すことがある」
「死ぬなんて言わないでください! くそっ! 血が……血がとまらにない! シーラを呼びに!」
「いいんだ。最期は……おまえのそばで眠らせてくれ」
カルマは激しく動揺していた。
何よりも困惑しているのは、自分が母の死に動揺していることだ。
あんな、最低な母だと、もう自分の母ではないと思った相手なのに。
どうして、死にゆく母を見て……こんなにも胸が締め付けられるのだ?
「カルマ……力が渡った以上、ベリアルは復活し、世界に破滅をもたらす。そうなった場合、今のおまえでは無力だ。カルマ……腕を出せ」
カルマは呆然とする。
やはり、考えがまとまらなかった。
じれたマキナがカルマの手を握る。
ぽわ……っとマキナとカルマの手が光り輝く。
「わがはいの……魔王四天王としての力を……貴様に譲渡する。ベリアルと比べれば小さな力だが……戦力にはなる。それと、わがはいの魔力を、ありったけ……」
マキナが手をぎゅっと手を握る。
小さな体から、莫大な量の魔力が、カルマのなかに流れ込んできた。
「やっ、やめてください! 死を早めるだけです!」
「いいんだ……どのみちもう助からない。それより……おまえに魔力をたくし……少しでもベリアルに対抗できるようにしてあげたい……」
カルマは手を振りほどこうとする。
だが、驚くほど強い力で、マキナはその手を離そうとしなかった。
「どうしてですか!?」
訳がわからなくて、カルマはマキナに尋ねる。
「あなたのやっていることはめちゃくちゃですよ! あなたは私に酷いことをした! 私のことどうでもいいからそうしたんでしょう!? なのに……私をかばって重傷を負い、死に際に私にいろんなものを託そうとする!」
カルマはマキナを見やる。
「どうして!? ねえ、どうして今更、私に優しくするの!?」
ぽた……とマキナの頬に、カルマの目からこぼれ落ちた涙があたる。
「それはな……カルマ」
マキナはカルマの頬に手を伸ばし、その涙を拭いて、微笑んだ。
「あなたのことが、大好きだからよ」
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