162.邪竜、その身を差し出す【後編】
メデューサが呼び出したのは、【大蛇】だった。
それも尋常ではない大きさだ。
銀の鱗を持つ巨大なる蛇に、メデューサは腰掛ける。
「【世界蛇】。わたくしが邪神王様の細胞を培養し造りあげた、最高傑作のモンスターですわ」
ハッ……! とカルマは我に返る。
「マキナ!」
ダッ……! とカルマはマキナに駆け寄ろうとする。
マキナは下半身を、世界蛇によって食いちぎられたのだ。
酷い出血をしている。
「おっとお待ちなさい、カルマアビス」
世界蛇がカルマの前に立ちふさがる。
「どきなさい! こんな蛇くらい!」
バリ……! とカルマは右手に万物破壊の雷を宿す。
世界蛇の土手っ腹を、思い切り殴り飛ばした。
ドガァアアアアアアアアアアアアアン!
凄まじいインパクト。
しかし……。
「なっ!? 無傷ですって!?」
「この蛇は邪神王様の細胞でできてると言ったでしょう? 邪神の力を無効化する力を持っている」
「そんな……」
無敵のカルマは、初めてその力が通じない相手と相対し、動揺した。
「うう……」
「ま、マキナ!」
下半身を失い、瀕死の重体のマキナ。
カルマはすぐさま治癒を施そうとする。
だが治癒の力が、マキナに効かなかった。
「そんな……」
「世界蛇は邪神の力を分散させる力があるののよ。その毒をマキナは受けた。つまり、あなたの治癒はマキナに通じない」
ようするに、マキナは手の施しようがないということだ。
「方法があるとすれば、邪神の力を取り去り、通常の治癒魔法で対処するのね。もっとも、あの死に体を邪神の治癒力なしで治せる保証はないけれど」
「カル……マ」
マキナが、虫の息でつぶやく。
「わがはいのことは……良い。ベリアルの力を……決して渡すな」
「そんなこと……できるわけないでしょ!?」
ギリッ、と歯がみして、メデューサを見やる。
「さっさと力を抜き取りなさい! 早く!」
にんまりと笑い、メデューサが世界蛇から降りる。
カルマの前まで歩いてくると、メデューサはカルマの胸に、腕を突き刺した。
痛みは不思議と無かった。
ずるり……と手を引き抜くと、そこには漆黒の水晶が握られていた。
「くふ……くふふふふ! あはははは! ついに! ついに手に入れましたわ! 邪神王の力!」
メデューサは、もうカルマに興味が無くなったのか、その場を離れる。
「これさえあればもう後は用済みよ。じゃあね」
メデューサは世界蛇の頭に乗ると、その場を後にしたのだった。
……かくして、カルマアビスは、その身に宿した最強の力を、失ったのだった。
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