161.息子、悩む【後編】
宿屋にて、リュージは自分の悩みをチェキータに打ち明ける。
「だいじょうぶ……だいじょうぶよ、リュー」
チェキータは強く、リュージを抱擁する。
「そんなことしなくてもいい。大丈夫だから」
「ほんと……?」
「ええ。大丈夫。あなたもリューも、また前みたいに傍らで、笑い合える日が来るから」
リュージはチェキータを見やる。
そこにいたのは、いつも慈愛と余裕にあふれたお姉さんエルフ……ではなかった。
無理に笑い、励まそうとしている、弱々しい姿がそこにあった。
「チェキータさん……」
彼女はリュージを強く抱きしめる。
「大丈夫。大丈夫だから。そんな悲しい顔をしないで? リュー、笑って。あなたも、カルマも、笑ってて……ね?」
……チェキータに励まされても、しかし心が晴れることはなかった。
それは当然だ。
自分の存在意義が、酷いものだったからだ。
母を殺すためだけに生み出された兵器。
それが自分だった。
自分には本当の両親はおろか、育ててくれた大切な母を殺すために作られた刃だったのだ。
「僕は……何のために……何のために……生まれてきたの? ……僕なんて、生まれてこなければ……」
「そんなことないわ!」
チェキータは声を荒らげる。
「そんなことは決して無い! あなたは生まれてきて良かったのよ! カルマはあなたに救われた! あなたがいなければあの子は死ぬところだった! あなたが自分の母親を救ったのよ!」
……必死になってチェキータが自分を肯定してくれる。
それでも……リュージの心には、まるで穴が空いてしまったように空虚さを感じていた。
チェキータは、なんとかすると言っていたが。
一番シンプルな回答は、自分が死ぬべきだということだろうとぼんやりと思った。
……そうだ。
自分は、いちゃいけない存在なんだ。
自分が死ねば、母さんが助かるなら。
悲しむかも知れないけれど、それでも……母さんが生きてさえいてくれれば……。
……いつもは心に響くチェキータの言葉も、今の殻にこもっているリュージには、届かないのだった。
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