21.邪竜、息子たちを連れて過去へ跳ぶ【後編】
母によって、ボス討伐を邪魔されたその夜。
凹んでいたリュージの元に、母がドアを(破壊して)くぐってやってきた。
母の目はキラキラと輝いていた。
……猛烈に嫌な予感がした。
母がこのような目をしているときには、絶対にトラブルがくっついてくるのだから。
カルマはリュージの部屋には行ってくるなり、手を引いて、
「行きますよ!」
と言ってきた。
「行くって……どこに?」
「そんなの決まってるじゃないですかっ!」
カルマはリュージの手を引いて、ずんずん……と部屋を出る。
そしてリュージをいったんその場に残すと、母は隣の部屋に入る。
「失礼しまーす!」
バキャァッ……!
「ナチュラルにドア破壊して部屋に入らないでよっ!」
母が入っていったのは、隣、つまりシーラの部屋だ。
ややあって、カルマがシーラを連れて、リュージの前に来る。
「あぅう~……いまぁ、なんじぃー……」
シーラは寝間着に着替えていた。
頭にかわいらしい三角のナイトキャップを被っている。
「起きなさいシーラ。冒険の時間ですよ」
「ぼうけん~……?」
うとうとするシーラに、「起きなさい」とカルマが万物破壊の雷を発動させる。
「え?」
びりびりびりっ……!
と、シーラの寝間着だけが、母のスキルによって破壊される。
……となると、どうなるか?
寝間着のみが破壊されて、シーラがたったまま下着姿になる。
「ちょっ!?」
リュージは顔を真っ赤にして、目をそらす。
……白の可愛らしい下着だった。いやだからなんだ。保存した(脳内に)。
シーラの寝間着を破壊し、カルマはすぐさま万物創造スキルで、ウサギ娘に服を着させる。
「あれぇ~……? カルマさん? りゅーじくん?」
ぱち……とシーラが今の衝撃で目を覚ます。
「みんなこんな夜更けにどうしたのです?」
はてな、とシーラが首をかしげる。
「シーラ。りゅー君。行きますよ」
「だから行くってどこに……?」
母と目が合う。
その目は、子供のようにキラキラしていた。
「ちょっと数時間前の世界にです」
……。
…………。
…………ん? んんっ?
「え、今なんて?」
「聞き直してる時間はないです! 行きますよぉおおお!」
カルマは万物創造すきるを発動させる。
「はぁあああああああ!!!」
カルマの目の前に、とんでもない量の魔力が集まっていく。
莫大な魔力は、やがてひとつのナイフになる。
カルマはスキルで作ったナイフを手にする。
「よーし! よしよし。完成です!」
カルマがナイフを手に、うんうんとうなずいている。
「母さんそれは?」
「これは時間と空間を行き来できる、魔法のナイフです」
「時間……? 空間……え、なに?」
母の言ってることがいまいち理解できなかった。
「なんか前に次元の悪魔とか言うザコが【魔王様の代わりに世界征服に協力してください!】とか言ってきてうざったくてボコったら、許してくれってお詫びにこれをもらったんです。いらなかったんで捨てましたが。それを再現してみました」
長ゼリフの割に、母が何を言ってるのかわからなかったが……。
母がまた、ろくでもないことをしようとしている。
そのことだけは、本能的に理解できた。
「ナイフよ! 私に力を! どりゃあああああああ!!」
カルマは魔法のナイフをふりあげて、何もない空間めがけて、振り下ろした。
何もないところで、ナイフを振るったところで、何が切れるわけでもない。
……と思ったのだが。
ずぉおっ……!
と、何もない【空間】が、【切れた】のだ。
「へっ? えええっ!?」
母がナイフでなぞった空間が、裂けていた。
うにょうにょ……とその切れ間から、謎の空間がのぞいている。
「はいこれ装備品一式。はいちゃんと持ちましたね? さぁレッツらゴー!」
「ちょっ! 母さんっ!?」
カルマはリュージたちの手を引いて、その空間の裂け目とも言える場所へと、足を踏み入れる。
ぐにゃり……。
と、浮遊感にも似た感覚が、リュージを襲う。
身体がねじ曲がるような、強烈な力を感じる。
そして……その感覚は、急に途絶えた。
「…………。ここ、は?」
リュージは目を開けて、あたりを見回す。
見知った場所だった。
「てゆーか、ここ、あのダンジョンの中じゃないか!」
そう……金剛カブトのいたダンジョンだ。
そのボス部屋の前だ。
「テレポート使ったの?」
リュージの問いかけに、カルマは首を振るう。
「使ってません。転移はあくまで空間を移動するだけです」
母がおかしなことを言う……のはいつもどおりだが、母がおかしなことを言っていた。
空間を移動するのがテレポート。
リュージたちがさっきいた空間から、ダンジョンボスの部屋の前まで移動してきた。
これは空間移動ではないか。
しかしそうではないと、母が言う。
「お母さんたちは、時空を超えて、数時間前に戻ってきたのです」
ぽかーん、とリュージが呆気にとられる。
「数時間前に……戻ってきた?」
「ええ。俗に言うタイムトラベルです」
……もう、何が何やらで、リュージはその場にへたり込んだ。
「あの、あのあの、カルマさん?」
シーラが手を上げて、母に尋ねる。
「どうして、数時間前の世界に、やってきたのですか?」
この状況に順応しているシーラやべえな、と思いつつ、確かにとリュージがうなずく。
「簡単です。ふたりにもう一度、ダンジョンボスを倒してもらうためです」
カルマがボス部屋の前に立ち、リュージたちを見て言う。
……その目は、真剣だった。
「お母さんは知りました。先ほどのボス戦、あれを私が邪魔していたのだと」
確かに母がにらみを効かせていたせいで、びびったボスモンスターが、その息子にたいして接待してきた。
結果、ボスを超楽勝で倒したのだが……。
「ごめんなさい。あれじゃ、さすがに勝った気に、なれませんよね」
しゅん、とカルマが肩をすぼめる。
「……ど、どうしたの母さん。熱でもあるの?」
まともなこと言ってるし……といいかけて、やめた。
「お母さんは正常です。ありがとう心配してくれて。気を失って良いですか?」
「読んで! 空気を!」
シリアスな場面でふざけないでもらいたい、と思うリュージだった。
「それはさておきです。数時間前の世界へとやってきました。だからこのドアの向こうには、金剛カブトがいます」
「…………」
なぜそんなことを、といいかけてわかった。
母は、わびを入れてきているのだ。
「お母さんが邪魔してしまったボス戦を、やり直してもらいたいのです」
「母さん……」
母は自らの行いを悔いているようだった。
「りゅー君、ごめんなさい。あなたたちの邪魔をする気はなかったのです。口で謝るよりも、こうして行動で誠意を示した方が良いと思って、過去へと跳んだ次第です」
そう、そうなのだ。
母は別に、悪気があってやったわけじゃない。
そんなの……わかってる。母の行動は、突き詰めると全部、息子のためなのだ。
息子のために行き過ぎた行動をしてしまうのであって、別に、息子を邪魔したいという気はみじんもない。
そんなのわかっている。母の行動に込められた愛情は、ちゃんと伝わっている。
「母さん……」
リュージはカルマに近づく。
母は子供のように身を縮めて、おびえていた。
「ありがとう」
ふわり、と母の身体に抱きつく。
シーラが見ているという恥ずかしさよりも、母への感謝の思いの方が、大きかった。
リュージは抱擁を解く。
「行ってきます」
カルマを離して、リュージは背後を振り返る。
シーラを引き連れて、ダンジョンボスのいる部屋のドアを……くぐる。
「んほぉおお…………息子に抱擁しゃれたのぉ~…………嬉ししゅぎるぅ~…………」
と、約一名、後で天に召されていたが、たぶん生きてるので大丈夫だろう。
……ちゃんと、生きててもらわないと困る。
生きて、帰ってきて、ただいまを言うのだから。
お疲れ様です!
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ではまた!