160.息子、真相を知る【後編】
リュージが聞かされた、真相。
それは、リュージが、邪竜カルマアビスを滅するためだけに生まれたということ。
直接的に最強を誰かが殺すことは、不可能。
ならばカルマ自身が死を選ぶよう、仕向ける。
そのための駒として、リュージは選ばれたのだ。
「そんな……そんな……」
リュージはその場に膝をついて、がくりとうなだれる。
メデューサはリュージを見下ろし、クスクスと笑う。
「作戦は驚くほど順調だったわ。カルマアビスはあなたを深く愛し、もはやあなた無しでは生きていけないほどまでに成長した。そんなあなたに命令されれば、あの邪竜は喜んで死ぬでしょうね」
「……そんなことっ」
リュージはぎゅっ、と拳を握りしめて、メデューサに殴りかかる。
「そんなことさせるもんかッ!」
怒りを込めて、メデューサをにらみ付ける。
勇者の力を解放し、聖剣を手に、メデューサに斬りかかる。
だがメデューサは余裕の笑みをうかべて、それをひらりと躱した。
「僕が母さんに……大好きなお母さんに、死ねなんて言うわけがないだろ!」
「そう、そこなのよ」
メデューサはふわりと浮き上がる。
空中ではどうにもならず、リュージは聖剣を治める。
「今回の計画において、唯一のイレギュラー。それは坊や、あなたが優しく育ちすぎたことなの」
「……何の話だ?」
「本来ならあなたは、わたくしの傀儡、つまり操り人形として育つはずだった。わたくしの命令にタダ従うだけの人形……。けれどそうはならなかった。すくすく、育ちすぎてしまったのよ。あの子のせいでね」
あの子、とは誰のことを言っているのだろうか?
「いずれにしろあなたにカルマを死ねと言わせることは不可能。つまり計画は破綻したかに思えたの。けれど……思わぬ幸運が転がってきたわぁ。あなたに、本物の勇者の力が宿ったことよ」
メデューサがリュージの左手の甲を見やる。
そこには、勇者の紋章が浮かんでいた。
「リュージの体に真の勇者の力や取った。それにより、カルマの体の中にある邪神ベリアルの力とより強く反発するようになった。ようするに、あなたは本来の役割である、カルマアビスを殺すという任務を、ここに来て十二分に果たしているということよ」
確かに、りゅーじはカルマの腕を掴んだとき、母を焼け焦げにしてしまった。
あれは、聖なる勇者の力が、邪悪なる邪神の力を滅ぼそうと働いたのだろう。
「わたくしとしては、あなたにこれまでどおり、カルマアビスのそばにいて欲しいと思う。けれど……あなたは違うわよね、リュージ」
「当たり前じゃないか……」
ぎゅっ、とリュージは歯がみする。
「母さんを……僕を育ててくれたあの人を……傷つけたくない」
リュージの脳裏には、カルマの笑みが浮かぶ。
脳天気に笑う顔。
優しく微笑む顔。
喜び泣き笑う顔。
……リュージは母の優しい笑顔が、大好きだ。
大好きな母が、これ以上苦しむようなマネを、させたくない。
「ならば坊やには、二つの選択があるわ」
すぅ……とメデューサが近づいてくる。
「1つは、坊やが死ぬこと。勇者の力が消滅すれば、カルマアビスを傷つける者はいなくなる」
「……もう一つは?」
にぃ……とメデューサが邪悪に笑う。
「カルマアビスを、あなたが殺すこと。死ねば、これ以上苦しむことはなくなるわ」
「そんなこと……!」
「で、あるならば、方法は一つしかないんじゃない?」
……そうだ。
近くにいるだけで、リュージは母を傷つけてしまう。
「さぁ、選択の時よ。自分か、それとも、大切な人か。あなたは、どちらの命を取るのかしら?」
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