160.息子、真相を知る【中編】
「母さんを、滅ぼすため……?」
メデューサの結界内にて。
リュージは白髪女性から、真相を聞かされた。
「いったい……何の話をしているんですか……?」
「そうね。じゃあわかりやすい話をしましょうか、坊や」
メデューサは異空間から、小さな球体を取り出す。
「これは、あなたの住むこの星の模型よ。さてリュージくん、質問。かつてこの星を壊そうとした存在がいたわね。だれか、知っているかしら?」
「邪神王……ベリアル?」
「そう。世界破壊、そして混沌を望んだ最強にして最凶の悪神。その神が生きていたら、世界は滅んだ。ここまではいい?」
リュージはうなずく。
「次の質問。そのベリアルを倒したのはだれ?」
「母さん」
「そう、あなたの母親、カルマアビスよね。悪い神は滅ぼされ、世界は平和になりました。人間は大喜びです。めでたしめでたし……」
メデューサはリュージを見やる。
「果たして、そうかしら?」
「……どういう意味ですか?」
「まだベリアルは消滅したけれど、完全には安心とは言えないわね。なぜだと思う?」
「……魔物がいるから?」
「それもそうだけれど、もっと根本的な話。果たして今のこの世の中、ベリアルの脅威が完全に取り除かれたと言えるのかしら?」
そうではないという言い方に、リュージは思いを巡らせる。
ベリアルの脅威、力は……確かに完全消滅したわけではない。
母の体の中に、存在している。
「そう、ベリアルはまだ生きている。あなたの母親のなかに。それを排除しない限り完全なる世界平和と言えない。しかしカルマアビスは最強にして無比の存在。勇者が行方知らずの今、世界最強の邪竜に太刀打ちできる存在はいない」
ではどうするか、とメデューサ。
「偉い人たちは、カルマアビスと戦って勝てないのであれば、戦わない方法で邪竜を滅ぼす方法を考えた。そうして生み出されたのは、孤独な邪竜に息子をあてがい、その子を育てさせるという回りくどいやりかたよ」
つまり、とメデューサが続ける。
「邪竜に人間を好きになってもらうの。そしてその人間を溺愛し、その子なしでは生きていけないところまできて、こう言わせるの【母さん、僕のために死んでって】」
メデューサが邪悪な笑みをリュージに向ける。
「これが【邪竜滅殺計画】。最高にイカレてて、最高に優しい、魔王退治の方法よ」
リュージは、やっと理解した。
自分の置かれている立場を。
つまり……。
「じゃあ……母さんに死ねと言わせるためだけに生まれたのが、僕ってこと……?」
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