159.息子、メデューサと邂逅する【前編】
母が娘と温泉に入っている、一方その頃。
深夜。
カミィーナ自宅にて。
「母さんとルコ、どこいったんだろ……?」
随分と前から、ふたりの姿が見当たらなかった。
「外に行ったのかな……?」
最近母が家を空けることが多くなった。
外で何かをしているのだろうか。
と、そのときだ。
「ぱぱー。ただいまー」
玄関の戸が開いて、ルコが帰ってきた。
「ルコ。おかえり」
「うぉー。かえったー」
褐色幼女が、リュージの腰に抱きつく。
「ルコ。こんな夜更けにお外でちゃだよ?」
「ぬぅ。すまぬ。ごめんちゃい」
「怒ってないよ。次からは出かけるときは、ひとこてかけてね」
「しょーちつかまつった」
がちゃっ、とドアが開く。
「母さん。おかえり」
「ええ、ただいまりゅーくん」
カルマは特に何も言わず、リュージのそばを離れる。
ふわり、と石けんの良い匂いがした。
「母さん、お風呂入ってきたの?」
「ええ。ルコと温泉へ行ってきました」
「そ、そう……」
もやっ、とした。
最近自分とお風呂に入らないのに、ルコとは入ったことが、気になったのだ。
無論リュージはお年頃。
母と一緒に風呂入りたくない。
母が過度に自分と接触しなくなった現状は、リュージにとっては喜ばしいことのはず。
しかし、素直に喜べない。
リュージを大人と認めてくれたから、ではなく、単に避けられているように感じるからだ。
「母さん。今日いった温泉、僕もいっしょに行きたいな」
カルマは一瞬硬い表情になるが、すぐににこやかな表情になる。
「ええ、そのうちね」
カルマはその場を立ち去ろうとする。
……やっぱり、避けられている気がした。
「母さん、まってよ。どうして避けるの?」
「避ける? そんなこと……してませんよ」
目線をそらして、カルマが言う。
「うそ。母さん、避けてたもん」
「そんなことないですって。ほら、寝ますよ」
やっぱり自分を明確に避けていた。
いつだって自分のそばにいてくれた母が、である。
それがリュージにとっては、すごく気になった。
「まってってば!」
リュージはカルマの腕を掴んだ……その瞬間。
バリバリバリバリバリ!
「うわぁっ!」
カルマの体に、激しい電流が走ったのだ。
リュージは思わず手を離す。
すると……カルマはその場に、崩れ落ちたのだった。
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