21.邪竜、息子たちを連れて過去へ跳ぶ【前編】
いつもお世話になってます!
息子が見事、ボスモンスターを撃破したその夜のこと。
カルマはリビングにて、ひとり、ううん……と頭を悩ませていた。
「おかしい……どうしてでしょうか……。謎です……」
するとすぅ……っと、監視者のエルフ、チェキータが、音もなく背後に現れた。
「ハァイ、カルマ。何が謎のなの?」
「あなたのその忍者みたいな技が謎なんですけど」
「まあまあ。で、それでどうしたの? 悩みがあるならお姉さんに相談してもいいのよ」
「なーにがお姉さんですかババアのくせに」
「まあまあまあ。話してご覧なさいな。人に話すことで、気づかなかったことに気づけるかもよ?」
このエルフに頼るのは非常にしゃくだ。
だがそれでも、自分1人で考えるのに行き詰まっていたところだ。
カルマはチェキータにイスに座るよう勧める。
エルフがカルマの正面に着席したのを見てから、話し出す。
「実はりゅー君が、ボスを倒してから元気がないのですよ」
「あー……」
チェキータは邪竜の監視者だ。
ダンジョンにカルマがいたということは、監視者もまた、そばで見ていたことになる。
「そうね。アレはちょっとカルマ、あなたが悪かったわね」
「なんと。私が悪かったですって?」
寝耳に水なんですけど、とカルマ。
「真顔よこの子……。やれやれ。これでよく母を名乗れたものねぇ」
苦笑するチェキータに、カルマがむっ……とする。
「ではりゅー君が落ち込みモードなのは私のせいだと。いったいどうして?」
「んー。それを言っちゃうとカルマのためにならないんだけどなー」
「もったいぶらないでください。さっさと言え」
「ま、今回はちょっとリューが本気で落ち込んでるみたいだし、特別にアドバイスしてあげるわ」
チェキータが腕と足を組む。
ぐんにょり、とその大きすぎる乳房が、腕に押しつぶされてとんでもないことになっていた。
「結論を言うとねカルマ、リューはボスを自力で倒したかったのよ」
「? 自力で倒したではないですか」
「あれは自力とは言えないわ。ボスモンスター、あなたがにらみ効かせていたせいで、息子のリューに手を抜きまくってたじゃない」
「? ?? ???」
チェキータの言ってることが良く理解できないカルマ。
エルフは苦笑して、
「それじゃカルマ。あなたがあのとき録画していた記録、見てみましょうか」
ふたりで記録の水晶を見る。
ボスモンスターは、完全にカルマにびびって、リュージたちに手を抜いていた。
「……ほんとだ」
今みたい映像に対して、カルマが愕然とつぶやく。
「この子ってばびっくり仰天してるわ。そっちの方がびっくり仰天よ」
くすくす、と苦笑いするチェキータ。
「そんなつもりはなかったのですよ。りゅー君がリベンジしたいっていうから、カブトを復活させたのです」
「でもカブトはあんたの脅威を脳裏に焼き付けていた。だからあんたににらまれて萎縮したカブトは、手を抜いちゃったんでしょうね」
「……なるほどそうだったのですか。りゅー君がウルトラスーパーちょー強くなっていたとばかり思ってました」
カルマはカブトが弱いのではなく、リュージが凄まじい強さを手に入れていた……と勘違いしていたのだ。
「確かにリューたちは強くなってる。ぎりぎりだけどね。自分たちの力だけで倒せたと思うわ」
「……それを、私が邪魔をしてしまったわけですか」
「そうね。カルマに自覚はなかったとはいえ、結果的にあなたがリューたちの邪魔をした。あんなの接待試合じゃない。あんなのに勝って何も嬉しくないわよ」
カルマはチェキータを見やる。
その目はいつも通りのように見えて、その実、真剣な色を帯びていた。
かといって、別にカルマをとがめているようでもない。
幼い子供に対して、母親が向けるような……。
そんな、優しい視線だった。
「……その顔ちょーむかつくんですけど」
カルマはハァ……とため息をつく。
うつむく。
息子が落ち込んでいる理由が、ようやくわかった。
自分がいけなかったのだ。
自分が、リュージから成功の喜びを……奪ってしまったのだ。
「…………。あ゛ーーーーーーーーーーーーーー!!!! 私のばかぁああああああああああ!!!」
カルマはバッ……! と外に出る。
そして「変身!」と邪竜の姿になる。
バサッ……! とその大きな翼を広げて飛び上がる。
月夜の晩に、漆黒の竜が、凄まじいスピードで空をかける。
やがて遙か上空へとやってくると、
【私の大馬鹿やろおぉおおおおおおおおおおおおお!!!】
どごぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!
と口から強烈なブレスをはき出す。
一直線に伸びたブレスは、そのまま遙か彼方へと飛んでいく。
【あ、やべっ】
ブレスはなんと、夜空に浮かぶ月を、丸ごと消し飛ばしてしまった。
【あー。ま、戻しておけばばれないですよね】
カルマは万物創造スキルを使って、壊れた月と同じものを作って、戻しておく。
元通りになった月を見て、カルマは地上へと戻る。
人間の姿に戻ったカルマに、チェキータがケラケラ笑いながら近づいてくる。
「あー……おっかしぃ〜。自己嫌悪で月を壊すなんて。破天荒にもほどがあるわよ~」
「うっさい。元に戻したから問題ないでしょ」
さて……とカルマは気合いを入れる。
ずんずん……と部屋の中に入って、2階へと向かう。
「これからどうするの?」
とチェキータが背後から聞いてくる。
「決まってます。動くんですよ。息子のためにね」
監視者をまっすぐに見て言うと、チェキータは微笑む。
「うん、その目なら大丈夫そうね。息子のために一生懸命なにかやってるときの、あなたのその目、お姉さん好きよ」
「はっ……! あなたに褒められてもこれ~~~~~ぽちも嬉しくないですよ」
ふんっ、とカルマはそっぽ向いて、歩き出す。
「あらもう立ち直ったの? もうちょっとシュンってしてても良かったのに」
「息子が凹んでいるのに、お母さんがいつまでも落ち込んでいるわけにはいかないでしょう」
カルマは歩みを止めない。
前を見据えて歩き出す。
そしてカルマはリュージの部屋に到着する。
「りゅー君っ!!!」
バーンッ!! とリュージの部屋のドアを開ける。
「か、母さんっ!?」
ベッドに横になっていた息子が、ガバッ……! と起き上がる。
「ど、ドアに鍵かかってたと思うんだけどっ」
「え? 鍵? かかってました?」
きょとんと首をかしげるカルマ。
ロックされてる感じはなかった……と思いながら、カルマは自分の手を見る。
「あ、なんかドアごと取れたので大丈夫でした」
「しまったこの人アホでアホ強いんだった!」
なんかショック受けてるけど、そんなの関係なかった。
カルマはリュージの手を取る。
「さっ! 行きますよ!」