157.息子、同窓会に参加する【前編】
リュージが、夢のなかで勇者と邂逅してから、半月ほどが経過した。
ある日の夜のこと。
自室にて。
「……これも、違う。これも、違うか」
机の上には、大量の本が置いてある。
それらをひとつ手に取ってページをめくっては、それを閉じてはぁ……とため息をつく。
「どこにも書いてない。魔王と勇者関係の文献って、思ったより少ないな……」
と、そのときだった。
コンコン……。
「はーい。どなたですか?」
『えとえと……しーらなのです! 入って良いのです?』
どうぞ、とリュージが促すと、兎獣人のシーラが入ってくる。
「わっ。お部屋に本がたくさんなのです。どうしたのです?」
「うん……ちょっと調べ物」
「もしかして……カルマさん関係?」
「まあそんなとこ」
カルマの体の不調は、ケガや病気の類いではない。
あの無敵母が、外的要因で体調不良になるなど考えられなかった。
となると内的な要因、つまりその身に宿した邪神の力が、何か関係あるのではないか。
そう思って、リュージは片っ端から、邪神、魔王、勇者関係の本を調べている。
なのだが、やはり大昔の話であるからだろう。
なかなか思った記述の書いてある文献がないのだ。
「りゅーじくんは、やさしーのです」
うふふ、とシーラが微笑む。
「お母さんのために、いっしょーけんめーなのです」
「ありがとう。照れるなぁ」
「けど……根を詰めすぎなのです」
シーラが真剣な表情で、リュージに近づいてくる。
「最近リュージくん……寝てないのです?」
「え……? そ、そんなことないよ」
「うそ。りゅーじくん、うそつくと、眉間にしわが寄るのです」
「え、ほ、ほんと?」
リュージは自分の眉間を触って、そして気付く。
「やっぱり……」
「か、かまかけたの……?」
「りゅーじくん。一生懸命なのはすごっく立派だと思うのです。けど、がんばりすぎて体壊しちゃだめなのです!」
シーラが真剣に怒っていた。
彼女は、誰よりも優しい。
だからこそ、リュージの体を本気で心配して、怒ってくれているのだ。
「ありがとう、シーラ。けど、大丈夫。僕最近、寝なくても元気なんだ。これは本当だよ」
夢のなかで、勇者の力を引き継いでから特に。
リュージの体のなかでは、気力と体力が満ちていた。
睡眠も休養も必要なく、動くことができる。
これが勇者。
魔を滅し、世界に平和をもたらす存在。
そのくらいの莫大なエネルギーがなければ、世界なんて救えないのだろう。
「でもきゅーよー、大事なのです! そこで! しーら、いっけーを案じましたのです!」
はしっ、とシーラがリュージの手を引いて、立ち上がらせる。
「いきましょー、なのです!」
「行くって……どこに?」
「冒険者ギルドに、なのです!」
書籍、コミックス好評発売中!




