表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

305/383

155.息子、勇者と出会う【後編2】



 夢のなかで、勇者ユートと遭遇した、その日の朝。


 リュージは自分の部屋で目を覚ます。


「…………」


 むくりと体を起こす。

 少し前なら、朝起きると、となりに母がいた。


 しかしベッドにはリュージしかいない。


 年が明けてから、母は1人で寝るようになったのだ。


 リュージを子供じゃないと認めてくれたのであれば、素直に母の変化を喜べただろう。


 母の態度が、体調が、おかしくなければ……だが。


「そうだ。ユートさんからもらった物、確認しないと」


 リュージはまず、自分の手の甲を見やる。

 左手の甲に、竜と剣を組み合わせたような模様が浮かんでいる。


「こっちはあった。けど、これって何の意味が……」


 ぐっ、とリュージが左手に意識を集中させる。


 すると……。


 コォオオオオオオオオ…………!


 左手が輝き、紋章から少しずつ、何かが浮き上がってくる。


「これは……剣?」


 一振りの、美しい剣が出現した。


 リュージはそれを手に取る。


 見た目のゴツさに反して、とても軽かった。


「軽い……それに、すごく馴染む……」


 今まで手にしたどんな剣よりも、紋章から出てきた剣は使いやすかった。


「そうだこれ……夢のなかでユートさんが使ってた、勇者の剣だ」


 魔王とたたかっていたとき、ユートはこの剣を振るっていたのを、思い出した。


「僕が勇者のクローンだからかな……この剣、すっごい使いやすい」


 まるで自分の手足のように、剣を動かせる。


 それに……。


 凄まじいまでの力が、握っている剣から伝わってくる。


「試し斬りは……やめとこ。家の中だし」


 勇者の剣をベッドの上に置く。

 すると、光の粒子となって、手の中に戻っていった。


「最後に……」


 リュージはポケットの中を探す。


「確か、指輪をもらったんだけど……」


 ポケット、ベッドの上下、部屋中を探し回った。


「ない……やっぱり、指輪はもらえなかったんだ」


 リュージはベッドの上に大の字に寝る。


「【願いの指輪】……どんな願いも、1つだけ適う指輪……か。欲しかったな」


 もし本当に、ユートからあの指輪をもらえていたら。


 リュージにはかなえたい願いがいくつもあった。


 ……だが、そのなかでも特に、かなえたい願いは。


「……母さんが、前みたいに、元気になってくれますようにって、願うのに」


 リュージは自分の手を見やる。

 その手に【願いの指輪】はない。


 それはまるで、母のことは、自分の手で切り開けと、勇者からメッセージをもらっているように思えた。


「…………」


 ユートは言っていた。


 この先、何か大きな決断を迫られる事件が起きると。


「……怖いよ、母さん」


 いつも自分を守ってくれていた、最強の母カルマ。


 彼女は今、不調を抱えている。


 カルマに頼るわけには行かない。


「いや、ダメだ! いつまでも、甘えてちゃダメなんだ……!」


 リュージは起き上がる。

 

「きっとユートさんが夢のなかに出てきたのは、僕がひとりで、乗り越えられるように手助けしてくれたんだ」


 勇者の助力を、無下にはできない。


「……頑張ろう」


 リュージは静かに、そう決意するのだった。

書籍、コミックス好評発売中です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ