155.息子、勇者と出会う【中編】
リュージは、勇者の記憶を覗いていた。
魔王と勇者が激しい攻防を繰り広げている。
魔王の扱う魔法は、軽く手を振るだけで天と地を裂き、生きとし生けるものを奪う。
一方で勇者の剣技は、魔王の魔法を打ち消し、魔王に命を奪われそうになっているものたちを救う。
リュージは勇者の圧倒的な強さに驚嘆した。
彼は魔王の炎を、嵐を、雷を、森羅万象を剣で切って見せた。
なんて強さなのだと感心した。
……それと同時に、劣等感を感じた。
自分もまた勇者と同じ血を引いているらしい。
しかしリュージには、眼下で戦う勇者と同じようなマネはできない。
自分は出来損ないの勇者なのだろうと、落ち込んでしまった。
そうでなければ、山の中で捨てられることもなかっただろう。
ややあって。
『終わりだ、魔王』
勇者が剣を、魔王に突きつける。
『くくっ、これで本当に終わると思うか、勇者よ?』
魔王が邪悪な笑みを浮かべる。
『私を倒したところで、悪は潰えることはない。魔王が死ねば別の物が魔王となる。終わりのないマラソンゲームだ』
『だからといって……俺は悪を見過ごすことはできない』
『ハッ! 私から見ればおまえの方が悪だ。魔族たちの王たる私が死ねば、弱気彼らがどうなると思う? おまえのやっていることは、一部を切り捨て、一部を救っているだけに過ぎない。この偽善者め』
勇者はギリっと歯がみすると、その剣を振るった。
ズバンッ……!
勇者の一撃で、魔王は消滅。
彼は大きくと息をつくと、リュージを見て言う。
『よう、君がリュージだな』
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