155.息子、勇者とで会う【前編】
母がシーラに励まされている、一方その頃。
リュージは深い眠りについていた。
……ふと、まぶたを開ける。
そこに広がっていたのは、魔物の大群と相対する黒髪の青年だった。
青年の姿に、リュージは見覚えがあった。
というか、自分と顔がそっくりなのだ。
リュージをもう少し大人にしたような顔である。
彼は剣を手にし、魔物の大群を前に、しかし微塵も恐れていなかった。
振り上げ、そして、剣を振り下ろす。
ズバアアアアアアアアアアアン!
彼の一撃は大地を削り、魔物たちは跡形もなく消滅する。
手の甲に、紋章を宿した彼は、剣を手に魔物をバッサバッサと斬っていく。
その先にいたのは、漆黒のオーラをまとった、1人の男だった。
『おまえが、魔王だな?』
彼が言うと、男はにやりと笑う。
『そう言うおまえは勇者ユートだな』
勇者。
かつて存在したという、魔を討ち世界を救ったという英雄だ。
リュージが見ているのは、勇者の記憶だろうか。
『何をしに来た?』
『おまえを討伐しにきた』
剣の切っ先を、魔王に向ける。
『下等生物が私を殺すか。面白い冗談だ』
『冗談ではない。貴様を殺す』
『私を殺して世界が平和になるとでも思っているのか?』
魔王は勇者を見下ろしていう。
『私はこの世にはびこる悪の1つでしかない。私を殺したとて、世界が劇的に平和になるわけではないぞ』
『だとしても、おまえのせいで多くの、流れる必要の無い血が流れた。だから殺す』
『立派な心意気だな勇者よ。……反吐が出る』
魔王の両手に、魔法陣が浮かび上がる。
勇者は剣を構えて、油断なく相手の出方をさぐる。
魔王の魔法が発動したと同時に、勇者は剣を構えて、走り出した。
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