154.邪竜、息子の嫁に励まされる【前編】
年明けからそろそろ、ひとつきが経過しようとしていた、ある日のこと。
「…………」
カルマはぼうっと、台所に立って、お皿を洗っていた。
「…………」
リュージに触れないと決めてから二週間ほど。
息子と触ると、勇者の力と反発し、体がボロボロになることが判明した。
あれから二週間。
リュージに触れるのを必死になって抑え続けた。
おかげで、体は幾分か回復している。
……けれど、心は泣きそうだった。
「りゅーくん……」
カルマはリュージを拾ってからずっと、息子とふれ合わない日はなかった。
幼少期はもちろんのこと、彼が成長し続けても、ずっと傍らにいて抱き続けてきた。
リュージは優しい。
年頃の男の子は、そういうのをうざがるとチェキータが言っていた。
けれど息子は、ため息こそつくが、心から嫌がったり、拒んだりしたことは一度たりとも無かった。
優しい息子。
大好きなりゅーくん。
そんな息子とふれあえないことが、カルマにとっては、死ぬことよりもつらかった。
だがそれ以上につらいのは、カルマが死に、リュージが負い目を感じてしまうこと。
息子には心安らかに生きて欲しい。
……そのためなら、自分は、地獄の業火にあぶられるような所業も、耐えられるという物だ。
「カルマさん?」
ひょっ、とシーラが、後から顔を出した。
「シーラ。どうしたのですか?」
「えと……その……お、おなかすいちゃって~」
えへへ、とシーラがシーラが笑って、自分のお腹を押さえる。
「何か作って欲しいなーっと」
「まったく、仕方ありませんね。パパッと作りますので、ちょっと待っててください」
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