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153.エルフ、メデューサのもとを訪れる【後編】



 メデューサの研究室にて。


「カルマの、邪神の力を……消す?」


 チェキータは戸惑いの声を上げる。


「どういうことなの?」


「簡単な理屈よ。カルマアビスは元から邪神の力を持っていたわけじゃないわよね?」


「……そうね。かつてベリアルを取り込んだことで、最強となった、ただのかわいそうな女の子よ」


 かつて世界を滅ぼそうと、ベリアルは地上にやってきた。


 しかしカルマアビスが、それを倒し、その身に最強の力を宿した。


 あの日から、すべての運命が変わってしまったのだ。


 カルマアビスという、繊細で、傷つきやすい、普通の女の子が、普通じゃなくなってしまった。


「モンスターは力を外部から取り込むことで、その力を行使できるようになる。けどそれは決して不可逆な反応ではないわ。彼女は取り込んだだけ。つまり融和してるわけじゃない」


「……邪神の持っているだけであって、邪神そのものになってるわけじゃない、と?」


 その通り、とメデューサが薄く笑って言う。


「今、リュージとカルマの間に起きているのは、勇者の力が、邪神の力を保有する存在、つまりカルマを殺そうとしている。カルマ個人を対象にしているというよりは、邪神の力を持っているからこそ、カルマはダメージを負っている。つまり……」


「邪神の力を持っていなければ、リューが近づいても、カルマにダメージは入らない」


「正解よぉ。デルフリンガー。よくできました」


 メデューサは近づいて、チェキータの頭に触れようとする。


 その手をバシッ! と乱暴に払いのけた。

「つれないわねぇ」


「それで、カルマから邪神の力を取り除くには、どうすばいいのよ?」


「簡単よ。わたくしには、その手段がある。あなたの態度次第では、協力してあげても良いわ」


「……自分の立場がわかっていなくって?」


「それはこちらのセリフよ。わたくしが死ねばもう邪神の力を取り除けない。りゅーじはカルマを殺す。ふたりは不幸になる」


 チェキータはうつむく。

 ぎゅっ、と下唇をかむ。


「リュージは良い子よねぇ。ほんと、親思いの良い子。まるでエルリアラ、あなたの死んだ娘さんのようだわ」


「……うるさい」


「エルリアラは本当に良い子よね。親の期待に応えようって頑張って無理して……死んじゃった物ね」


「うるさい!」


「かわいそうなエルリアラ。その妹エルルキア……えるるちゃんも行方知らずだし」


「黙れ!」


 チェキータは声を荒らげる。


 メデューサはふっ、と笑う。


「カルマアビスに治療を施してもいい。ただし、条件があるわ」


 メデューサはチェキータの耳元に、口を近づける。


「近く、あの子たちのもとに大きな事件が起きる。そのときに、あなたは手を出さない。それが条件よ」


「……そんなことで」


「そんなことでいいのよ。あなたは監視者としていつも通りにしてくれれば良い。もともとあなたがあの子立ちに深く関わることはしちゃいけないのにね」


 メデューサはチェキータから離れる。


 その肩を、ぽんと叩いて。


「あなたは昔のように、ただカルマアビスが悪事を働かないよう見張るだけで良い。何があっても手を出さない。そうすれば、あの子たちは救われる。あなたも監視者としての責務から解放される。良いことづくめよ」


 メデューサはその場を後にする。


 チェキータはしばし、その場に残った。


「どうするかはあなた次第だけど……返答は、聞かなくても大丈夫ね」

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