153.エルフ、メデューサのもとを訪れる【中編】
メデューサの地下研究所へとやってきた、チェキータ。
「あの坊やの勇者の力を消す、ねぇ」
白髪に白衣の女、メデューサが、実に楽しそうに笑う。
「わたくし、あなたたちの敵よぉ? 監視者として、あの邪竜から魔王の脅威を遠ざけなくて、いいのぉ?」
「……うるさい」
「この国の平和を守る諜報員が、わたくしのような平和を乱す不穏分子を排除せず助力を仰ぐなんて、国王陛下が知ったらなんておっしゃるかしらぁ?」
「うるさい!」
チェキータはナイフを手に、メデューサに斬ってかかろうとする。
だがメデューサは動かない。
ニタニタした笑いを顔に貼り付けたまま、一歩も動かなかった。
ぴたっ、とチェキータのナイフが、メデューサの首筋手前で止まる。
「いいこね、デルフリンガー。そうよね、わたくしをここで殺してしまったら、もうあの親子に発生してる問題を、どうにもできないもの」
「……知ってたのね」
「当然よ。竜のムスコを作ったのが、いったい誰か、忘れたのかしら?」
チェキータはナイフを取り下げる。
「……だからこそ、あなたに助力を頼んでいるんじゃない」
「見返りは?」
「……今ここで、あなたの首を跳ね飛ばしても良いのよ?」
チェキータは左手に魔法、右手に剣を持つ。
「わかったわかった。力を貸すわ。さすがに元とは言え、王国最強の大賢者と戦うほど、わたくし愚かじゃなくってよ」
メデューサがクスクスと小馬鹿にしたように笑う。
「それで結論なんだけれど、あの坊やから勇者の力を消すことは不可能よ」
「……どうして?」
「リュージ。人造勇者最終号。通称【ラストナンバー】。あの子は勇者の体細胞から培養して作った、人造の勇者。つまりあの子自体が勇者であり、それを消すとなると文字通りあの子を殺すことになる。それは、本意じゃないのよね?」
「……当たり前のことを言わないでちょうだい」
「怖い怖い。そんな熱心にわたくしを見つめないで、デルフリンガー」
チェキータは剣先をメデューサにつきつける。
「代案があるのでしょう? あなたがそういう言い方をするときは、必ず」
「よくわかっているじゃない。……そうね、リュージから勇者の力を取り上げることは不可能。けど、その逆はできるわ」
「逆?」
メデューサは微笑むと、言う。
「邪竜カルマアビスから、邪神王ベリアルの力を取り除くことは、可能よ」
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